内容説明
偶然がもたらした伊村と蓉子との邂逅。乾徳山、鷹取山、丹沢……。二人は共通の趣味、登山を通して深く関わりあっていった。蓉子は夫から疑惑の目を向けられつつも伊村と冬の谷川岳に挑む。猛吹雪で七日間閉じ込められた彼らを待ち受ける残酷な現実とは? 精緻な心理描写が光る異色山岳小説。
目次
風の遺産
「風の遺産」との再会
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
キムチ
49
押入れから出てきた「きわめつき昭和」という読後。伯父や兄に聴いていた昭和30年代の山行ってこんな感じだったんだ。経験なきに等しい女性を冬の谷川に連れて行く?いくら不安定な時期といえども天候が全く読めないのだろうか?大学のしかも科学のセンセで!それにしても新田先生の恋愛は裃を着ていてアパンチュール(これも古い)ゼロ。読みつつもイライラ・ムズムズ。まぁ古き良き日本の男女といえばこんな感じなのかなぁ。精緻な心理描写?至ってまともに感じる久美がいじわるちゃんに描かれているのも主観の相違。とはいえ古色感も楽しい。2016/05/14
タツ フカガワ
34
人妻の恋を軸に男と女、男と男、女と女の駆け引き、韜晦、探り合いなど、心理劇がバチバチ展開していく異色の山岳小説でした。とはいっても、終盤の冬山遭難での極限状況は、まさに手に汗握る緊迫感。1962年発表の作品なので時代背景に古さはありますが、冬山で荒れ狂った風の遺した結末に、ふっと陰がよぎったように感じたのは……読み過ぎか。2021/05/11
ヤスヒ
14
あとがきによるとこの「風の遺産」は人妻の恋を描き、それに登山を絡ませて書いたという小説。昭和36年から37年にかけて書かれたとの事で読んでいて時代背景が眼に浮かぶ。いつもの新田さんの山岳小説と同じように山の描写は素晴らしくクライマックスのシーンもよかったがそれよりも今回は登場する人物の心理描写の方に気がそそられる。主人公の蓉子と同僚OLの久実の一人の山男に対しての競争心、嫉妬心が絡み合い、蓉子は倫理に反しているなぁと思いつつもどっぷりとストーリーに引きずり込まれた。新田さん作品としては異色だが面白かった。2017/08/15
eipero25
13
昭和中期の山岳・恋愛小説、しかも硬派の新田次郎氏がねえ。 興味そそられました。 ユリアンのネタで昭和の女優のしゃべり方、ちゅうのがあるが、会話はまさしくそのもの。 白黒映画みたい。 わかりにくい現代小説ばっかりよりも、たまには、携帯なし、アパートには家電さえない昭和の遺産もいいものだ。 温故知新。 それにしても新田氏は編集者がお嫌いなのか、秀一さんえらい気の毒やったわ。2018/05/05
ろこぽん
12
新田次郎さんの山岳モノはやたらと雪山で遭難します。 そして、新田次郎さんの描く女性の奥ゆかしいこと。だけど時々秘めたる強さを見せるのでかっこいいです。 この時代の「人妻」って今の「人妻」よりはるかに重いものなのだろうな。今の時代に生まれててよかった、ホンマに。 久実がなんであんなに真平に執着したのかな?どう考えても2人は合わないし、堀越めちゃイイヤツじゃん。 2020/08/21