内容説明
【第13回開高健ノンフィクション賞受賞作】日中戦争の最中、満州国に設置された最高学府・建国大学。「五族協和」を実践すべく、日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアから集められた若者たちは6年間、寝食を共にしながら国家運営の基礎を学んだ。そして敗戦。祖国へと散った彼らは帝国主義の協力者として弾圧を受けながらも、国境を越えて友情を育み続けた。スーパーエリートたちの知られざる戦後。
目次
序章 最後の同窓会
第一章 新潟
第二章 武蔵野
第三章 東京
第四章 神戸
第五章 大連
第六章 長春
第七章 ウランバートル
第八章 ソウル
第九章 台北
第十章 中央アジアの上空で
第十一章 アルマトイ
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
116
満州国の最高学府として設立された建国大学。五族協和の実現の為に、日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアから驚異的な倍率を突破し入学した学生達の戦後を記すノンフィクション。異なる民族の学生が議論し生活する。そこに生まれる繋がりは、五族協和と言うよりは、異民族でも個人同士ならば分かりあえることを示している。国家レベルになれば、様々な国益が絡み理解し合うことが難しくなる。それが現実だろう。学生達の志の気高さ。敗戦により待ち受ける予想だにしない環境の激変。歴史は続いていく。歴史を知ることの大切さを改めて認識した作品。2019/06/29
ちゅんさん
50
かつて満州国に"五族協和"を理念に日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアから優秀な学生を選抜し将来の満州国を担う人材育成目的に建国大学というエリート養成機関が存在した。そんなエリート達も戦後、時代の波に飲まれ不遇な人生を送ることに。著者は彼らを取材するためアジアの国を飛び回りながらその証言を集めていく。しかし彼らがかなり高齢なことやそのお国(中国)元建国大生という特殊な事情がありなかなかうまくいかない。それでもここまで調べて読ませる作品に仕上げた著者の筆力と情熱は賞賛に値する。貴重なノンフィクション本2022/10/27
hatayan
43
将来の満州国の国家運営を担う人材を育成するために設立された「満州建国大学」。民族共和を掲げ、日本人だけでなく朝鮮人、中国人、ロシア人なども学生として共同生活。出自に関係なく言論の自由が認められる環境が用意されていましたが、終戦と同時に消滅。不利益を恐れて大学にいたことを隠す卒業生が多かったといいます。失われた記録を求めて、著者は生き残ったOBに国を跨いでインタビュー。政府の掲げた理想と矛盾に学生が悩み苦しんでいたこと、学内では教養主義が重視され手厚い教育が受けられたことなど、歴史の影を浮き彫りにします。2019/08/29
石油監査人
35
著者は朝日新聞記者でルポライター。満州建国大学とは旧日本陸軍が創設した教育機関で、日本、中国、朝鮮、モンゴル、ロシアから優秀な人材を集めて満州を統治するための人材を養成していました。この本は、同大学の出身者に対して、著者が2010年から2011年にかけて行った取材を元に構成されています。戦後、同大学出身者は日本軍への協力者とみなされ、外国の当局から弾圧を受けた者も数多くいました。日本に対する複雑な思いもある中で、同窓生同士が連絡を取り合い、不遇な者に対して支援し、励ましあっていたという事実が胸を打ちます。2025/08/28
アナクマ
35
矛盾と暴挙に満ちた新生国家、満州を運営するための人材育成機関「建国大学」に集った五国のエリートたち。その青春と戦後を描く。国々の思惑はさておき、皆で生きるという尊い理想の煌めきを内包したノンフィクション。◉著者の熱意ある誠実な取材と、細くても結ばれた同窓生達の思いがあいまった良品。◉もうすぐ失われる「五族協和の現場」の肉声から、私自身の戦史・教育史観を上書きされる可能性を感じることができ、本作を足掛かりに苦手な現代史に分け入る動機をもらった気がします。2018/01/20
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