内容説明
気丈で働き者のおせんは、おとなしく控えめな庄吉と、乱暴者だが闊達な幸太の2人から相次いで求愛を受ける。幼さゆえに同情と愛とを取り違え、上方に修行へ行く庄吉の「待っていてくれるか」という言葉を受け入れた彼女は、しきりに会いに来る幸太のことをすげなく突き放す。たいへんな大火事が起きたのはそんな時だった。おせんは病気の祖父をかばって逃げ遅れ、窮地を救ってくれた幸太は、火に追われ逃げ込んだ川の中で、濁流にのまれ命を落としてしまう。火事で一切の身寄りをなくしたおせんは、幸太と不義を働いたという根も葉もない噂で心身ともに追いつめられてゆく。追い打ちをかけるように、月日を経て再会した庄吉からも幸太との不義を疑われ、婚約破棄を言い渡されて――。火事から町が復興し、柳橋がかけられるまでの日々に起きた、おせんという一人の女性の哀しくもたくましい愛の物語。他「生きる」ことへの悩みに真正面から向き合った『しじみ河岸』を加えた中編2作による名作集。
※本書は二〇一三年九月に新潮社より刊行された「山本周五郎長篇小説全集第五巻」、二〇〇五年十一月に小学館より刊行された「山本周五郎中短篇秀作選集2」を、文庫化したものが底本です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ひさか
6
2018年3月角川文庫刊。既読。やはり名作。諸田玲子さんの解説で「没後半世紀」と描かれていました。著作権50年切れに合せた出版なんでしょうねぇ。ちょっと考えてしまいました。2018/07/26
もか
5
なぜもっと信じないのだろう?もっと調べれば分かっただろうに傷付いたと風潮し、ちゃっかり幸せになるとは…庄吉も辛かっただろうけど、おせんちゃんの波乱万丈や幸太の献身を思うと、庄吉を張り倒したい(L)2021/10/05
こけこ
3
読み易くて、また手に取った。以前読んだときには、おせんが可愛そうだと思った。今回は、芯の強さを感じて応援した。しじみ河岸のお絹は、家族の為に自分を捨てる覚悟だった。いやはや、脱帽。2023/02/02
こけこ
3
おせんは強くて逞しい。だからこそ、待っていられたんだろうな。私は、果たして待っていられるだろうか?お絹には、これから幸せになってほしい。しっかし、金と名声がある男っていうのは、ろくなことしないなあ。2020/02/12
ぺしみち
3
庄吉がさっさと杉田屋に確認すればよかったのに。バカだなー。2018/06/10