内容説明
心蕩かす悪の爽快感! 花村時代小説の至宝。
時は戦国、下剋上の世。京都・相国寺近くある三好家の屋敷に、その男松永久秀はいた。得体の知れぬ出自でありながら、茶の湯に通じ、右筆として仕える野心家である。気に食わぬ者は容赦なく首を刎ね、殺害した女を姦通し、権謀術数を駆使して戦国大名へと成り上がっていく。さらには将軍足利義輝を斃し、東大寺大仏殿を焼き討ちにしてしまう。信長ですら畏れた稀代の怪人・松永弾正を突き動かすものは、野望かそれとも……!?
戦国時代を彗星のように駆け抜けた武将の生きざま・死にざまを、「弟」として仕えた丹野蘭十郎の眼を通して活写する。
芥川賞作家・花村萬月氏が戦国時代を舞台に「悪とは何か」を問う新感覚時代小説。皮膚感覚を狂わせる暴力に戦慄を覚え、匂い立つようなエロスに耽溺する物語世界はますます磨かれ、かつまた、悪業の限りを尽くす主人公を愛嬌たっぷりに描き、読了後に寂寥感すら抱かせる筆運びは圧巻です。「突き抜ける悪の爽快感」はまさに花村時代小説の至宝といえます。
単行本が発売された2014年には、「この時代小説がすごい! 2015年版」で4位に、また、週刊朝日の「決定! 歴史・時代小説ベスト10」で3位にランクインしました。
カバーイラストは人気イラストレーター・寺田克也氏です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ずっきん
74
義弟の蘭十郎が語る松永久秀に酔いしれること請け合い。ガッチリと組み上げられた虚構の上で史実が跳ねるさまに肌が粟立ち、鼓動が高鳴っていく。いや、最後はわかってるよ。わかってるけれど終わらせたくないんだと喘ぐ一方で、見届けたいという思いが激しく募りページをめくる。そしてなんと泣いてしまった。史実はこうだが実は──なんて小技は皆無である。たやすく斬り、犯し、謀略謀反を企てる梟雄は梟雄のまま描かれ、それでもその魅力の虜になってしまう。わたしは女だが憧憬の念を抱いてしまう。これぞピカレスク。2020/01/03
hippos
27
「じんかん」が良かったので続けて久秀もの。京都弁?がうまくはまってこちらのほうがより感情移入できた。 「神仏というやつ、畏れ敬う者だけを選んでいたぶるもんですわ」とさらりと言ってのける久秀像がすごい。2022/02/02
金城 雅大(きんじょう まさひろ)
27
「オレも欠けとるわ」と己の不完全さをさも当然のごとく言い放てるのは、意外に胆力が要る。この一言のみで、久秀の器がいかに大きいか分かる。 久秀を「男性性の極み」と言った友人がいるが、彼は強い女性性も兼ね備えているとオレは感じる。 オレが嫌いなのは男性性のみを振りかざして居丈高になる愚者である。強い女性性も兼ね備え、その両者をうまく使い分ける久秀のような男には、むしろ憧れを抱く。 久秀もさることながら、弟分の蘭十郎もなかなかに人間臭く魅力的だった。2018/07/15
さっちも
20
初期作品から題材は飽きずにセックス&バイオレンスと自意識。歴史ものをやりだしたら佐々木道誉とか松永弾正とかするだろうと思ったら案の定という感じ。ただ偉大なるマンネリと言うべきか、執拗に同じテーマを追うことで、萬月さんついに何か捉えたという感じがした。史実とフィクションの融合や人物造形に無理がなく世界に没入できた。舞台を戦国にもっていくと、いつもは突飛な感じがするキャラ達がしっくりくる。文章も艶かしく品があって円熟味を帯びてきた感がある。素晴らしい2020/05/05
ちゃんぐ
16
室町幕府末期に実在した松永弾正久秀の青春時代から死に様までを蘭十郎という架空の語り部を通してその時々の内面を描く。前半は狂気とエロス(絶対に娘には勧められない)。しかし、流石は芥川賞作家。言葉を自在に操り戦国時代の殺伐とした雰囲気、不潔で暗い京都、そして人の命の軽さを実にリアルに紡ぎだす。読後にネットで調べたところ、意外にも史実が多く含まれていることに驚いた。今までは信長側からの視線で語られることの多かった松永弾正。こんなドラマッチックな男の一生があったとは。でも大河は無理。エロだから。2020/01/14
-
- 電子書籍
- 魔女だけど皇帝になりました!【タテヨミ…
-
- 和書
- 黒い家