内容説明
自由の名の下に、人々が闘争を繰り広げていく現代社会。愛を得られぬ若者二人が出口のない欲望の迷路に陥っていく。現実と欲望の間で引き裂かれる人間の矛盾を真正面から描く著者の小説第一作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
99
著者最初の小説。冒頭から挑発的に明け透けな物言いをするところが著者らしいが、それは根底にある悲観主義から来るこじらせっぷりの反動にも見える。ただ、その苦しい思いを曝け出すことは必要なものとも思えた。語り手は徹底した客観的な観察者となり、彼自身、同僚、そして社会を率直に見据える。自由競争(闘争)と合理主義が強く結束した現代は、価値観を単純化して安易な社会階級システムを構築する。それは経済だけでなく性愛にも及ぶと彼は言う。闘争の果てがもたらした人間の姿とその矛盾。自由と成熟の意味を問われているかのようだった。2024/03/20
やいっち
66
ウエルベックの処女作。次が「素粒子」。最初からウエルベック節炸裂。皮肉屋で世の中を斜に観ている男が主人公(語り手)。だが、彼は実はシニカルなだけの奴じゃない。彼には世の中が人が見えてしまう、感じてしまう、もっと云うと感情移入してしまう。デブの女。恐らく一生、処女だろう女。デブでニキビ面の男。一生、うだつの上がらない奴。女には決して相手にされない。童貞が生まれながらに(物心ついた時には自覚を迫られ)宿命づけられ、実際、最悪の青春時代を過ごし、社会人になって一層、惨めな現実を思い知らされる。(続く)2019/11/05
Vakira
57
鳥類では雌は地味で雄は煌びやかな外観形態を持つものが多い。捕食者に目立とうとも、雌を獲得する方が子孫を残せた結果だ。ライオンの雄は成長と共に鬣が生え、鹿、麒麟、山羊、牛などの偶蹄目は角が生える。哺乳類では雌を勝ち取るために雄は仲間同士戦わなければならない。より強く、よりかっこよくなった方が子孫を残せてきた。人間はどうか?一般的に美しくなろうとするのは女性の方だ。人間生態では生活の糧を創出する量は男の方が多い。よって男の価値が上がり、男を獲得するために女性は綺麗になろうとする。さて、この物語。2025/02/04
南雲吾朗
48
「もうそれ以上、ルールの領域では生きられなかった。だから闘争の領域に飛び込んだ。」小説の序盤に登場するこの言葉はウエルベックらしい発想だと思った。この闘争の観念を経済問題にだけではなく、性行動に結び付けて思考するあたりがウエルベックなのだろう…。「性的行動は、ひとつの社会階級システムである」。経済自由主義と性行動の自由化の類似性を語っている。著者の中で、どれほど「性」が重要な要素なのだろう?これはフランス人の性質なのだろうか?終盤で語られる鬱状態の記載はすごく上手いと思われた。2018/02/21
ともっこ
34
ウエルベックらしい皮肉のオンパレードが痛快で、読みやすい。 綺麗ごとではない現実がこれでもかと描かれやはり陰鬱な気分になるが、坦々とした一人称の物語に、ウエルベックの憂鬱、哀愁、憐憫が見え隠れするのが魅力。 著者が自ら言うように、彼の作品は感情の機微の描写を楽しんだり、キャラクターやストーリーを楽しむ種類のものではない。 読後すぐに「面白かった」と手放しに紹介できるものではない。 彼の作品がじわじわ効いてくるのは、これからだと思っている。 今までの作品同様、事あるごとに思い出すことだろう。2022/03/05