内容説明
戦時中に結婚して初めて一緒に住んだ大きな藁屋根の家、そして戦後に疎開先から戻って住み込んだかつての飛行機工場の工員寮を舞台に、大寺さん連作のうちでも若かりし日にあたる三作と、恩師である谷崎精二を囲む文学者の交流と彼らの風貌を髣髴とさせる「竹の会」、アルプス・チロルや英国の小都市を訪れた際の出来事を肩肘張らぬ筆致で描いて印象深い佳品が揃う短篇集。
目次
藁屋根
眼鏡
竹の会
沈丁花
キュウタイ
ザンクト・アントン
湖畔の町
ラグビイの先生
解説 佐々木 敦
年譜 中村 明
著書目録 中村 明
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
michel
11
★4.5。「その頃、大寺さんは大きな藁屋根の家に住んでいた。ー」ほとんど心理描写がなく、客観的な第三者の視点で物語られていく。特に大きな事件が起こるわけでもない。何でもないラストなのに、何とも不思議なしこりが留まる。この作者の不思議な作風に酔う。2021/09/23
qoop
9
自分の経験を三人称的にとらえて小説化した大寺さん連作、師である井伏鱒二に因んだ回想、欧州滞在時の思い出など、著者の作家生活後半を代表する三つのシリーズを一冊で味わえる美味しい短編集。以前だったら同じテーマをまとめて読みたいと思ったものだが、今では点景のような作品群をいちどきに読める本書の方がしっくり来るようになった。それぞれに落とし込まれた著者の有り様をいちどきに読むことで、相互に補い合うような感覚を味わえると感じるからかも知れない。2021/12/06
きゅー
9
小沼丹が57歳となる1975年に刊行された短編集。白眉は随筆「竹の会」だろう。これは早稲田大学の教員である谷崎精ニ(谷崎潤一郎の弟)が亡くなった後に書かれたもので、小沼は彼に師事していた。谷崎を中心として井伏鱒二など著名な作家の様子が活写されており実に楽しい作品だった。講義のときは謹厳実直な谷崎だが、酒の席では飄々として「ひゃあ」なんて素っ頓狂な声を上げたりするギャップが笑える。その他の物語もオチがあるわけでもないが、やけに癖になる文章だ。2018/09/03
佐倉
4
『村のエトランジェ』に続いて読んでみたが、あちらに収録されていたものよりも劇的な展開や感情をスポイルした作風のものが多い。過去に住んだ家の話、占領の際に交流したアメリカ人、飲み屋のマダムの思い出、恩師である谷崎先生の話、ドイツやイギリスを旅した時の話……そういう、現実に起きた出来事やあるいはなんてことのない話が題材となっているが、やはり「自分が関わりえない運命」の存在を描いている。マダムの死もケネディ君のその後も、ドイツで寂しげにコーラを飲んでいた女性にも…自分には関係ないのに思いを馳せられる余地がある。2022/07/30
ゆかっぴ
4
いつも読んだ後ほっこりした気分になるのがいいです。遠い昔、近い昔の出来事やゆかりの人たちを思い出してみるのもよい時間だと思いました。慌ただしく生活するだけでなくゆっくりした時間を大事にしたいと思います。2018/10/28