内容説明
故郷をこよなく愛するとともに、世界の多様な風景・風俗を愛したチャペックは多くの旅行記を遺している。その優しくユーモラスな筆致は、深い悲しみと叡智を底に秘め、世界中に今もなおファンが多い。本書は1931年、世界ペンクラブ大会出席のためオランダを訪れたときの観察記。運河、自転車、犬、風車、橋、オランダ絵画……。独特の視点からその民族性を抽出し描く手つきは見事。イラスト多数。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぱなま(さなぎ)
8
所々に挿入されている著者によるイラストは、シンプルな曲線で構成され、見ていて思わず微笑みがこぼれてきます。活字になった文章よりも、本人の手の動きが如実に感じられるイラストの方が、人柄をよく表現している気がするから面白いものです。こぢんまりとして綺麗で、余裕のある大人の国、といったオランダへの印象はチャペックの時代からいまでも変わっていないように思えます。その間にあの戦争を経ているのにも関わらず。ますます平準化されていく世界の中で、小さな国がいかにして存在感を獲得していくかという視点からも興味深い書でした。2015/11/13
けいちか
4
チャペックの旅行記。オランダもチェコと同じ小国で、小国の国民ならではの観察眼が素晴らしい。挿絵も相変わらず着眼点が違うと思わされるもの。「オランダ絵図」としては、Ⅰ~ⅢまででⅣは関連のある新聞に発表された文章が収録されている。段々とナチス・ドイツの影が忍び寄る戦前の緊張が感じられる文章。2014/10/13
あくび虫
3
チャペックの筆致からは、常に祖国への愛が匂い立っています。それは微笑みを誘うばかりですが、その国の運命のことを思うと――または愛情の切実さゆえに――、哀愁にも似た印象を受けます。それらの判別しがたさのために、美しさが際立つのでしょうか。――あとがきに、友人から見たチャペックの記述があったのですが、それがなんとも面白い。カレル・チャペックという個人に対して、(正直言って作品以上に)深い興味を覚えました。2016/10/21
feodor
3
チャペックの旅行記シリーズ第五弾。オランダの建築、風景、そしてオランダの誇る画家たちの話がちらほら。そして、国際ペンクラブの様子がでてくる。ちょうど、ナチス台頭期であり、チェコ併合期でもあるため、巻末に収められたペンクラブ関係の記事には自由を守らんとする叫びがところどころに見え隠れする。チャペックのへたうまな感じのイラストも含めて、短いけれどもなかなかよい本だった。2010/10/09
こなやぎ
2
様々な地方の印象を綴ったチャペックのエッセイ集のうちの一冊。あとがきまで読むと、あえて目を惹きそうなトピック、我が出そうな話題は避けて地理や歴史、建築物や芸術についてユーモアを織り交ぜつつ静かに考察している氏の姿が浮かんでくる。オランダの水路を評した、以下から始まるくだりが好きだ。「昔のオランダ人たちが自分たちの町を家と水で建設した理由は、主として、いわば一度に二つの町を作ろうとしたからだ。一つは地上の町で、もう一つはその水鏡に映ずる町である。…」2019/06/16