内容説明
御茶ノ水、聖橋のたもとで演説をする奇妙な男。ゴーゴリの「鼻」と後藤明生の「挟み撃ち」について熱く語るその男は、大声を出すには相応しくないマスクをしている。そしてまた道行く人々もみな同様に。なぜ誰もが顔を隠しているのか、男の演説の意図は何なのか。支離滅裂に思える内容に耳を傾けるうち、次第に現実が歪み始め――。政治小説の再来を目指した表題作の他三篇を含む幻惑小説集。
目次
今井さん
私が描いた人は
鼻に挟み撃ち
フラッシュ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
橘
22
文通友だちさんからいただいた本です。いとうせいこうさんの本を読むのは久しぶりですが、登場人物の語りにぐいっと惹き付けられました。面白かったです。どの語りも奇妙でしたが、表題作が好きでした。わたしも病で一時期マスク人間だったのですが、確かにあれは安心します。誰でもない人になって、誰でもない人を眺める。例え、鼻が無くても分からないよな、と思いました。「民族衣装かと思うくらいマスク。」に笑いました。読んでしまった今の気持ちを上手く表現出来ないですが、風変わりな読書体験でした。2018/05/29
まひと
11
ゴーゴリの『鼻』『外套』を読みたいと思っていたら、他著者の作品で大まかな流れを知ることになってしまった。完全にネタバレである。そんな本作品は実に奇妙な内容だった。ゴーゴリが出てきたと思いきや、カフカが出てきて、後藤明正が出てきて、『鼻』『外套』『変身』『挟み撃ち』がそれぞれ出てきて、いとうせいこう本人も登場し、そして演説をするマスク男である。どうやらこの作品の世界は「民族衣装かと思うくらいマスク。」をしているそうで、それが今の時代にぴったり当てはまっていて驚いた。私の感想同様、掴みどころのない話であった。2020/08/15
Yuji
10
2014年に出版。いとう氏16年のブランクがあったとは知らなかった。書けなくなっていたらしい。タイトル作の中編と3つの短編。いずれも語り手と聞き手が、いわば共犯関係にあり、語りの進行中に影響を与えあうような構造となっている。演説者と聴衆、テープ起こしのライター、憲法の朗読、その場で用紙に書き殴る女と拾い読みする男。書かれている言語自体を意識させる。面白いよ。私、全然上手く説明できてないけど。また本作で後藤明生って作家を知れました。あららノーマークだ2022/11/12
ぶうたん
5
表現的に難しいとか、意味が取りにくいとか言うことはなく、そういう意味では読みにくくは無い。ただエンターテイメントではなく直線的なストーリーがあるわけでは無いので、それなりに歯応えがある。何というかゴムのような歯ざわりで、何とも言えない味はするものの、噛みきれずに嚥下できない感じとでも言おうか。中ではメタフィクションの表題作が印象深い。後藤明生は買ってある本はあるものの憶えている限りでは1冊くらいしか読んでいない気がするので、もう少し読まなければ。著者の本もね。2018/06/21
きみー
5
読んでいて、うわっうわっとジャブを入れられているような、圧を感じる作品ばかりでした。表題作も面白かったのですが、最後の「フラッシュ」のやきりれなさ、やられた感からの文字の散乱と疲れた感じがたまらないです。2017/12/15