内容説明
近代日本を代表する詩人の,自らへの自負と揶揄,表現者としての存在の不安がみなぎる作品の数々は,どこからやってきたのか.自身実作者ならではの繊細な視点で,詩や詩集誕生の瞬間(過程?)を目撃者の証言のように鮮やかに読み解く.生誕一一〇年,没後八〇年の今,研究の最新成果をも存分に盛り込んだスリリングな一冊.
目次
目 次
凡 例
第一章 無限の前に腕を振る
1 詩の生成と存在への不安
2 「朝の歌」あるいは揺れ動くもの
3 夜 の 歌
第二章 「大正」という時代
1 長州・湯田温泉
2 天才と野生児
第三章 関東大震災の以前と以後
1 落第と出郷
2 関東大震災は何を与えたか
3 早熟の不潔さと孤立
第四章 「歌」の発見
1 弱者の思想
2 歌と声
3 歌のなかの無音と沈黙
第五章 『山羊の歌』から『在りし日の歌』まで
1 「雪」と沈黙の音楽
2 戦争の時代あるいは宙吊りにされた青春
3 「在りし日」が過ぎるまで
4 行方不明の「少年」
第六章 誰にどのように読まれたいか
1 「療養日誌」の発見
2 「ボン・マルシェ日記」から読みとる
3 青春の神秘
あとがき
中原中也略年譜
主な引用・参考文献一覧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
17
中也の詩の遍歴や技法がわかりやすく、詩の勉強にもなった。母の影響で短歌から初めて、関東大震災でダダに走り、冨永太郎の手引でフランス象徴詩に目覚める。小林秀雄と長谷川泰子の三角関係で人生の敗北感を味わい、歌に目覚める。詩だと書き言葉中心だが、中也は歌の口承性に注目したのは短歌の素養があったからだろうか?歌のような詩で注目を浴びたが息子の死によって沈黙の歌というような絶望感に取り憑かれて精神をきたすほどになったとか(精神病院に入れられた)。衰退しきった姿で小林秀雄に詩の原稿を渡すとか出来過ぎなストーリーだな。2023/08/23
yamahiko
17
読みやすくとても面白い詩論でした。が、中也の詩に関しては、どんなに素晴らしい分析も薄っぺらに感じてしまう。生きることと詩を書くことが一致していた本物の詩人だと思いたいから。2017/10/08
ロビン
14
「汚れつちまった悲しみに・・」などで知られる詩人の中原中也について、彼の詩にながれる<沈黙の音楽>を丁寧に読み解きながら描かれた評伝。フランス語が堪能であった中也が、ヴェルレーヌやランボーなどのフランス詩人から多くを負っていることや、本人も子どものようなところがあるが無類の子ども好きで、息子を亡くして気がふれるほど悲しんだこと、有名な小林秀雄との奇妙な友情など様々な側面を知ることができた。13歳で「芸術を遊びごとだと思つてるその心こそあはれなりけれ」と詠んだ中也のひりつくような真剣さが心を揺さぶる。2024/03/29
浅香山三郎
12
中原中也の詩のよい読者ではないが、興味深く読んだ。「療養日誌」の発見といふニュースを始め、中也の未整理な草稿類を丹念に読み解く。さうして、詩の肌触りの一枚下にある人間臭い息遣ひと作品との緊張関係を読み解く。長男の死から精神病院での療養、さらに突然の本人の死まで、きはめて真面目に藝術を追究して生きた詩人の姿がよく理解できる。2018/10/19
井の中の蛙
9
中原中也という詩人を、人生や詩の分析などから色々な面で捉えていた。2024/09/13