内容説明
元禄の世の風俗や世情を記した日記『鸚鵡籠中記』で知られる尾張の御畳奉行・朝日文左衛門の素顔は、密かに私事を書き留めた「秘本」の中にあった――。酒好きで、女好きで、噂話好き。武士としての志を立てるも、怠け者ゆえに、時に欲に溺れ、時に修羅場も経験するダメ男。あまりに不器用だけれども、どこか愛さずにはいられない男の一代記。
感想・レビュー
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なゆ
82
いや〜面白い。ごく普通の、ちょっと酒にだらしない尾張藩士のサムライの十八歳から死ぬまでの記録。日記魔の朝日文左衛門という侍は実在の人物。その日記「鸚鵡籠中記」は、実は人には見せられぬ本音を綴った㊙裏本が存在するというお話なのだが、実に人間くさいというか、憎めない人物で。呑んだくれで芝居好きで武芸はからきしで、妻の心にはとことん鈍く、すぐ下女に手を出し、なんだかいつもオロオロしている。だけど、読み終わると朝日文左衛門は、なかなかいい人生を送ったんじゃないかと思わせられる。日記を書けなくなった理由も苦笑いで。2020/05/29
shizuka
52
とことん普通、いやむしろ「クズ」の部類に入る侍が30年近く書き溜めた日記。家族の目に触れてもOK用の「表」日記と悪口雑言や器の小ささをこれでもかと素直に綴った「裏」日記と二冊きちんと書き続けたことは評価に値する。しかしこの文左衛門。稀に見るダメ侍。志だけ無駄に高い、めちゃんこ矮小な奴。この実に人間らしいところが、私のダークサイドをくすぐる。女房泣かせすぎだし、女中に手をつけすぎ笑。でも意外な運の良さが彼を助け結果そこそこ恵まれた人生を送ることができちゃった。迷惑かけつつ長生きして万々歳。侍だって人間だ笑。2019/11/16
天の川
44
実在する日記があるという。家格にして中の下、ただただ酒好きな毒にも薬にもならない武士の日記は、飾らず素直に世に起こることを綴る。自分のヘマも、世間の醜聞も、藩内の失政も…。前妻、後妻共に彼に暴力を振るうのは、彼が女にだらしなく、妻の心をわからないからだと思うのだが、何とか丸く収めようとオタオタする彼のことを結局、皆は愛しているのだ。まだのんびりしていた元禄の頃の御三家の家中、武士はヒマを持て余していたのね。名古屋弁の会話が長閑さをいや増していました♪2020/06/06
真理そら
29
『元禄御畳奉行の日記―尾張藩士の見た浮世 』と同様、朝日文左衛門の18歳から26年間書き続けた日記をもとにした作品。酒や芝居や女の誘惑にはすぐ負けてしまうし、せっかく初恋の相手と結婚できたのにいろいろな事情で逃げられてしまうし…素朴な娘を後妻に娶ったのにこちらもまた…二人の妻がこんなに変貌してしまうのは文左衛門自身に何か問題があるのかもしれない。武士の日常生活を生々しく伝える名古屋弁がとても効果的。料理の内容など細々した記述がリアルで楽しく読めた。2019/03/26
如水
22
歴史小説家天野純希さんが描く元禄時代の武士日記・・・と思ったら本当にいた人で日記も実在していると知ってビックリ!しかし内容は時代小説で日記風な小説です。そしていつもと違いほぼ滑稽本。太平な世の武士は暇を持て余してたんだな〜と思い読了。・・・もぅいいかな、時代小説は(笑)2018/01/27