内容説明
自分には血のつながった兄がいる。後年その異母兄を訪ね邂逅した瞬間を鮮やかに描く「兄」。十歳の時に住んでいた奇妙なアパートの住人たちの日常が浮かぶ「トンネル長屋」など、まるで物語のような世界が立ち上がる――。自身の病気のこと、訪れた外国でのエピソード。様々な場面で人と出会い、たくさんのいのちの姿を見つめ続けた作家の、原風景となる自伝的随筆集。新たに五篇を収録した完全版。
目次
兄
星雲
ガラスの向こう
風の渦
殺し馬券
小説の登場人物たち
書物の思い出
パニック障害がもたらしたもの
世界、時間、距離
人々のつながり
田園の光
消滅せず
土佐堀川からドナウ河へ その一
土佐堀川からドナウ河へ その二
象牙石
トンネル長屋
そんなつもりでは……
写真のあとさき
蜜柑山からの海
あとがき
文庫版あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
135
久しぶりの宮本さんのエッセイです。京都の料亭が出している冊子に10年間にわたって書かれたものを文庫完全版として出版されたものです。父親の違うお兄さんがいたとは知りませんでした。他のところでよく書かれている予備校時代に父親の関係で拉致されそうになったことなどやご自分の著書などについての話が掲載されています。2020/01/01
レモングラス
92
宮本輝自伝的随筆集。今までは「命の器」が一番好きだったけれど、この本も並ぶくらいにいい。母の最初の結婚での子ども、異父兄を訪ねての「兄」。十歳の時に住んでいた奇妙なアパート「トンネル長屋」。「パニック障害がもたらしたもの」のラストの一文、悪いことが起こったり、うまくいかない時期がつづいても、それは、思いもかけないいいことが突如として訪れるために必要な前段階。「消滅せず」の冒頭は、ひとりの老人の死は、一つの図書館の消滅に等しい、ラストは、いいことを残してゆくんだからな。「蜜柑山からの海」のラストは→2022/09/24
ゆみねこ
70
単行本で既読でしたが、五編を新たに収録した完全版。様々な場面での人との出会いが綴られ、小説の元になるエピソードも。「水のかたち」で語られている朝鮮半島からの引き揚げのことや、病気のことや旅のことなど、宮本さんの作品が大好きなので、とても満足して読了。2018/04/25
Shoji
64
人は誰しもすねに傷を持ってたり、棺桶に入るまで黙り通したいことの一つや二つあるだろう。赤貧の少年時代、川の上での生活、すえた臭いしかしない長屋の生活、邪魔者扱いされた幼少期、取り立て屋がやってくる日々、それらは人格形成にどう影響したのであろうか。文字通り『いのちの姿』、すごくいいタイトルだ。読み終えてそう思う。2017/10/30
aika
55
初めて読む宮本輝さんのエッセイ集は、労苦がこれほどまでに人を強くするのかと、驚きと感慨で満ちていました。借金の取り立てから身を隠す少年期、社会から疎外されてもなお、地に這いつくばって生き抜いている人々の記憶、そしてパニック障害との壮絶な闘い。それらすべてが宮本さんという、人を心で観ることのできる人格を創り上げたのだと思います。宮本文学に触れた時に感じる、心の奥から沸き立つ激しく、静かな揺れは、著者自身の血潮が読み手の内に流れ込むからなのだと、行定勲監督のあとがきを読んでようやく気づくことができました。2019/04/03




