内容説明
没後20年――藤沢周平が残した俳句と、俳句をめぐるエッセイ。
青年期に結核治療のため入院した病院で、藤沢周平は初めて俳句と出会う。何よりも自然を詠みこめるという感動から、俳句の世界に入っていった。俳誌「海坂」に二年にわたり投句を続け、俳句への強い関心は後に長篇小説「一茶」に結実する。
本書には「小説『一茶』の背景」「一茶とその妻たち」「心に残る秀句」「稀有の俳句世界」など、随筆9篇も収録。
さらには単行本刊行から約18年、この度、新たに発見された俳句を付して、待望の文庫化。
業界紙記者時代の昭和36、37年に、「馬酔木」(あしび)に月に一句ずつ、本名の小菅留治名で投稿句が掲載されていた。36年の分では、作者の手書きで、その句を含む数句が月ごとにまとめられていた。
また、「俳句手帳」昭和53年版に、30句が記入されており、句の多くは、藤沢周平が作家になってからのものと推定される。
合わせて100余の句が、一般読者に向けて初めて公開されることになった。
藤沢の俳句への思いに光を当てる貴重な発見といえる。
〈文庫解説〉「『自然』からの出発」 湯川豊(文芸評論家)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モトラッド
38
★★★★☆全集を読み尽くし、ほかに読むものはないか、と思っていた時に、父の書架で見つけた一冊(単行本、1999年、3月30日第一刷)。『「海坂」、節のことなど』という興味深い一文をイントロにして、氏の詠んだ俳句111句が掲載されている。内訳は、俳誌「海坂」より54句、「のびどめより50句、拾遺7句。加えて、随筆が九篇収録されており、これが各々絶品で、心地よい余韻を残す。藤沢文学がお好きな方なら、氏の俳句への造詣の深さに触れるのも、興味深い事と思われる。2022/09/14
オールド・ボリシェビク
1
藤沢周平は全集を持っているほど好きな作家なのだが、これは全集完結後に刊行された。未発表句もあって、貴重な一冊だ。根っからの農民であることがわかる句が多い。2017/09/12
スズキィイ
0
20代後半に発症した肺結核の治療中に句作を開始した藤沢周平の百余りの句が収録されていて、中には単行本刊行の後に発見された俳句も文庫版には付されている。特に同じようで異なる句が複数あると、一つのモチーフを丁寧に俳句にしていく過程が作品を通じてわかるので読者としては大変興味深い。2024/05/30