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内容説明
僕は実際近頃にこのくらい愉快に読んだ本はなかった――芥川龍之介(東京日日新聞)
九十貫を超える巨猪を撃った狩人の話。仕留めた親鹿をかつぐ後から子鹿がついてきた話。村で起きる怪しい出来事はいつも狸の仕業とされた話……。奥三河・横山で見聞、古老から聴き溜めた猪・鹿・狸の逸話が縦横に語られる。芥川龍之介・島崎藤村も絶賛した文学性の高い文章は、伝説や昔話も織り交ぜて独自の伝承世界を形づくっている。暮らしの表情を鮮やかにすくい取る感性と直観力から生まれた、民俗学の古典的名著。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
70
山の動物たちと人間との記録。狩りの話、村々に生きる人々の話、山の話が混然一体となって、読んでいるうちに囲炉裏端で古老が語っている昔話、神代の物語を聞いている心地になってくる。猪狩りの話や、鹿が姿を消す話、狸に化かされる話など思わず読むのに引き込まれてしまうし。凄いのは本書に含まれている話が三河横山という村のみで語られていた事。昔はかくも山と動物、人は身近なものであったのだな。面白く読んだものの「鳥の話」に代表されるような少年時代の郷愁や今は失われた人と動物の交感を感じさせられ、酷く哀しい気分にも襲われた。2018/09/01
seacalf
60
民俗学者の作者が見聞きした猪、鹿、狸の逸話の数々、少年時代の鳥のエピソードをまとめたもの。少し前の日本の農山村なのに遠い異国の話かのように新鮮で面白い。医者の薬よりも猪の肝干しの方が有難がられた時代の話、光明皇后は鹿から生まれたという伝説、狸寝入りならぬ狸の死んだ真似や、様々な化け狸の話等々他では聞けない逸話の宝庫。神秘と紙一重の山村の話を読んでいると、だだっ広い関東平野に住んでいると忘れがちになるが、やはり日本は山に囲まれた土地が多いのだなと実感する。当時掲載された芥川龍之介のブックレビューも興味深い。2021/08/11
syaori
54
「花祭」の研究で有名な民族学者の早川孝太郎が、故郷の三河鳳来寺山周辺で採取した猪・鹿・狸に纏わる物語を集めた本。狩りの話から猪の胆の効験譚、「金銀財宝が自ずから集ま」るという鹿の玉の逸話、狸が娘に化けたりという話までが、様々な人と獣の交わりが当時の村の生活と絡めてまっすぐで端正な筆致で描かれていて、その魅力を味わうように小話を辿ってゆきました。それは大正から明治にかけて、人と獣の世界との交渉の最後を飾る物語たちでもあって、懐かしく遠くなってしまった世界の妖しさと美しさに、本を閉じた後は少し胸が痛みました。2021/07/14
to boy
27
大正15年刊行の三河鳳来寺山周辺の聞き取りの話。獣に関するいろんな話が面白かった。実話、噂話、又聞きなど様々な話に明治、大正の山奥の人達の暮らしが見えてきました。猪にどれだけ苦しんできたのか、狸には化かされるというちょっと親しみを持った接し方も面白かった。手負いの鹿は村に向かってくるというのも初めて知りました。ちょっと前の時代(曾おじいさんくらい)の生活が読み取れて興味ある内容でした。2017/12/19
まさ
20
早川孝太郎氏は柳田国男の弟からの縁で民俗学者になった方。読んでみてやはり、民俗学という視点は好きだなと実感。猪、鹿、狸―いずれも人との接点が多い野生動物であり、特に猪の逸話からは、人が備えている自然への畏敬の念のようなものを感じた。猪を撃ったときに頸の怒り毛を抜いて山の神に捧げるのが猟の作法だそう。殺めるだけではない、自然との接し方なのだろう。一方で、狸の項はクスッと笑える話が多い。化かす化かされる生き物ならでは。2024/06/26