内容説明
かつて著者が勤めた札幌医科大学病院に入院しながら、「短歌研究」第一回五十首詠募集の特選となり、颯爽と中央歌壇に現れた新星・中城ふみ子。歌集『乳房喪失』は大反響を呼び、昭和短歌史にその名を刻むが、すでに乳癌で両方の乳房を切除していた彼女は死の床にあった。それでも恋に堕ち、性の深みに堕ちてゆく。美貌と才能に恵まれ、短くも激しい生命を燃やして31歳で夭折した歌人の愛と生の遍歴。
目次
序章
第一章 蒼茫
第二章 野火
第三章 幻暈
第四章 喪失
第五章 夕虹
第六章 光彩
第七章 装飾
第八章 落日
終章
あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
161
十勝出身の歌人「中城ふみ子」さんのまさしく波乱万丈な一生を描いています。こんなにも自由奔放に、かつ太く短く生涯を終えたのかと読み終えたあとの感想はなんとも声になりません。彼女の生き方に賛否両論はあるのでしょうが、病が発覚してからの最後まで自分の美しさを追及してやまない生きざまはあっぱれとしか言えませんでした。男性が読むのと女性が読むのとでは大きく感じるものも違ってくると思われます。乳癌に苦しみながらも、最後の最後まで自分を貫き通した彼女の末期に涙がじんわりときました。壮絶な一生に言葉がありませんでした。2020/10/20
駄目男
21
31歳で亡くなった中城ふみ子という人を知っているだろうか。これまで渡辺淳一が書く自伝小説は全部読んできたと思っていたのだが、先日、100コーナーで本書を見つけ、これは読まねばと思い購入した。才能を認められ順風満帆にきたふみ子を襲った突然の乳がん。然し、発病前から奔放な男性遍歴は止まず次々に男が現れる。執着心があって独占欲が強く、我儘で自己中心的な気性、派手で早熟、負けん気が強い、一途な気性の激しい、良く言えば天真爛漫、悪く言えば向こうみず、人並み以上に感性の強い、じゃじゃ馬。2023/04/11
湖都
14
帯広出身の歌人・中城ふみ子の一生を描いた作品。一生といっても、この作品のほとんどは彼女が癌と闘った晩年、ほんの2、3年を主としている。彼女が癌を患わなければ、ここまで評価されることも、ここまで奔放に生きることもなかっただろう。実際、本書は癌の闘病記である。読んでいて辛くなる場面も多かった。中城ふみ子の人柄も、女性としてあまり好感は持てなかった。しかし、華やかに懸命に生きた彼女の姿は痛々しくも美しい。2019/04/30
kaoru
10
31歳という若さで世を去った歌人中城ふみ子の生涯。『乳房喪失』という当時としては衝撃的な題を一連の短歌に与えたのは中井英夫だった。恵まれたおいたちや不幸な結婚生活を経て歌人として花開くふみ子が描かれる。通俗的に感じられる部分もあったが、病と闘いながら強い意志で作歌を続けた毅然とした姿は鮮烈で、決してふみ子を美化せず、淡々と対象に迫る筆致に感銘を受けた。当時はスキャンダラスとされた数々の短歌も今読むと清冽な抒情が感じられる。『冬の花火』とは一連の連作にふみ子が最初につけた題ということを初めて知った。2017/11/17
Penn
5
乳がんのためわずか31歳で夭折した中城ふみ子の伝記的小説。「皮肉なことだが病気がすすみ、死がさけがたくなってから、歌は研ぎすまされ、己れの心に正直になっていく」とあるように、死の恐怖と戦いながらも、命の限り歌を詠み、恋に生きた輝きに圧倒される。タイトルは「ふみ子はふと、自分が誰ひとり見る人もない雪の片隅に消えてゆく、冬の花火のように思えた」から来ているが、その女性的魅力で多くの男性を魅了した彼女はむしろ、夏の夜空に咲いた大輪の花火ではないか。「いくたびか試されてのちも不変なる愛は意志といふより外なく」2015/10/28