内容説明
「書くこと」に囚われた三人の女性たちの〈本当の運命〉は――
新人作家の國崎真実は、担当編集者・鏡味のすすめで、敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。先生の風変わりな屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切りっていた。初対面でホリー先生は、真実のことを自身の大ベストセラー小説『錦船』シリーズに出てくる両性具有の黒猫〈チャーチル〉と呼ぶことを勝手に決め、真実は戸惑うばかり。
書けなくなった老作家、その代わりに書く秘書、ギャンブル狂の編集者、老作家の別れた夫……真実の登場で、それぞれの時間が進み始め、女三人の生活は思わぬ方向へ。
その先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?
『ピエタ』が2012年本屋大賞3位になった著者の、2014年直木賞候補作。
「書くこと」の業を、不思議な熱を持って描いた前代未聞の傑作!
これは書く女だけの小説ではなくて、人生の考察小説だ──解説・角田光代
☆森和木ホリー ──才能なんてしょせん得体のしれないもの
「錦船」シリーズが大ヒットしてジュニア小説の女王と呼ばれる小説家
☆宇城圭子 ──その娘がやって来たら、何をしよう。まずはホリーさんと二人、あの白い部屋に閉じ込めてみようか。
公務員からスカウトされて以来20数年間、ホリーの有能な秘書。ホリーによると人殺し?
☆國崎真実 ──なんかもう、コロッケの声が聞こえるっていうか。
編集者の助言でホリーの内弟子となった新人作家。コロッケ作りの名人。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふじさん
94
森和木ホリーは、ジュニア小説の女王と呼ばれる作家で、今は書けていない。宇城圭子は、地方公務員をやめてホリーの有能な秘書で、ホリーの代わりにエッセイを代筆している。國崎真美は、書きたい新人作家でコロッケ作りの名人で、編集者の紹介でホリーの弟子になる。書くことに囚われた3人の本当の人生とは?彼女たちと3人に関わる人々との絡み合いを面白可笑しく描きながら、彼女たちの人生が淡々と語られる。不思議な味わいを持った作品。実は、第152回直木賞候補作品です。直木賞受賞作「渦 妹尾山婦女庭訓」とまったく違う印象だ。 2023/01/20
ばう
57
★★★★「あなたの本当の人生は」と話しかけられたらどうしよう?悔いのない人生というのは分かる。でも本当の人生というのはよく分からないなぁ。いや、そもそも人生に本当とか嘘とかあるの?幸福でも不幸でも充実していてもしていなくても、それはどれも本当の人生なんじゃない?久々に人生について色々考えさせられましたが最後はキラキラした陽光の中、静かに、でも力強く進んでいく一隻の船。そんなイメージが残るお話でした。2020/05/18
ぶんこ
41
「あなたの本当の人生は」と、予言者のような一面を持つ作家ホリー。ホリーに本当の人生はここではない、私の秘書と言われて地方公務員の職を辞めて秘書となった宇城。売れない新人作家の真実は、担当編集者の鏡味の勧めでホリー家の住込み弟子となる。書かれる視線がコロコロ変わるので読み辛い部分もあって、物語に入り込むのに苦労しました。解説の角田さんが書かれているように「本当の人生」って、考えると難しい。私自身はそこまで考えようとも思わなかったので、さすが角田さん。私には難しすぎました。2018/03/23
ユメ
40
互いに胸の内を探り合いながらこそこそと原稿を書く三人の女を見ていると、「あなたの本当の人生は」という言葉がこだまする。本当の人生とは何だろう。自分がそれを生きていたとして、あるいは生きていなかったとして、そのことが判るだろうか。疑問が渦巻く中、ひしひしと感じたのは、他人の人生さえも自分が生きるための物語として食べてしまう人間の宿業だ。糧として物語を求めるあまり、原稿用紙の上に別の人生まで生み出してしまうのだろうか。三人が人生の真実にいちばん近づいているのは、魔法のコロッケを口にしているときのように思う。2017/10/12
エドワード
37
あなたの本当の人生は?と問われて戸惑わない人間がいるだろうか。「オレの本当の人生はコレじゃない」というヤツがいるが、それは言い訳だ。本当の人生は、気がつけばそこにあるもの。作家・森和木ホリー、秘書の宇城圭子、ホリーのファンで弟子となる國崎真実。ホリーの豪邸で暮らす三人が語る、短いながらも緊張感に満ちた時間が実に心地よい。錦船というファンタジーも実に儚く美しい。誰もが本当の人生を生きている。コロッケを揚げるのも、地方公務員も本当の人生。角田光代さんの「人生の真偽と幸福は関係がない」との解説が味わい深い。2019/08/01