内容説明
人が愛するのは肉体なのか。それとも、魂、心、精神なのか。
魂のみが死滅してしまう奇病、「ルドング病」が流行する2110年の日本。その唯一の治療法は、過去に死んだ人間の精神を代わりに肉体に入れるというものだった。2014年、28歳の若さでこの世を去った井上綾乃(いのうえあやの)は、30歳の「小笠原霧恵」という女性の肉体に精神を宿し、2110年の日本で再び目覚める。しかし綾乃は、既に自分が愛した夫と娘がいない世界のなかで、見ず知らずの「霧恵」の旦那である秀(しゅう)と、娘の梢(こずえ)と共に家族として生きていくことを迫られる・・・・・・。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
九月猫
48
“魂”って、なんだろう。西暦2114年。肉体が健康なまま精神が死んでしまう奇病が流行。助かる唯一の方法は、他人の魂を移植すること――。これを病から助かってると言っていいのか?体を残して魂が死にゆく人、魂だけがいきなり他人の体に呼ばれてしまった人、愛する(愛された)周りの人たちにとって、その選択は幸せなんだろうか?正解のない物語の着地点は……。揺れ迷いながらも魂の繋がりを感じるラブストーリーに仕上がっていた。けど、でも、やっぱり“魂”って、なんだろうね。2017/11/18
itoko♪
43
第3回本のサナギ賞大賞受賞作。『人が愛するのは、肉体なのか。それとも、魂、心、精神なのか。』28歳でこの世を去った彩乃は100年後の未来で、見知らぬ女性 霧恵の身体に魂を移植される。だが霧恵の夫は、実は…。近未来の設定だけど、科学的な難しい話ではなく、巡り合わせの不思議や、運命という言葉を信じたくなる、そんな作品。近未来の家政婦ロボットのユニークさや、ユーモアもあり、楽しめました。2017/08/12
dr2006
38
百年後の未来、多くの人が、精神が破壊され程なく肉体も死に至るルドング病に罹る。一方、魂バンクに保存されている別人の魂を患者の肉体に移植する事で治療できる。表紙からはライトなSFを思わせるが結構深重だ。移植された魂がその肉体や記憶に対し拒絶反応を起こす苦しみが、移植された魂の視点で赤裸々に描かれているからだ。百年前に災害で夫子を残して死に、自らの記憶を持ったまま別の男性の妻の肉体に移植された主人公の彩乃は、時空を超えた葛藤や嫉妬に苛まれる。不穏な結末を予感させる展開が作品のスパイスとなっている。サナギ賞。2020/09/29
のんちゃん
20
100年後の未来日本。肉体は健全でも魂だけ死んでしまう奇病が流行り、人口減少を防ぐ為、過去に亡くなった人からの魂の移植が行われていた。いきなり未来世界で自分の曾孫の肉体に移植された彩乃。彼女の心の葛藤が描かれる。この様に記すとSF小説の感じだが、がっつり人間の心理を模索する話である。私だったらどうだろうかと、ずっと彩乃と共に苦しく、頁をめくり続けた。SFが苦手な私でも興味深く読めた。いや、これは、SF小説では、ないんだ!2018/02/11
シンヤ
17
人が愛するのは、肉体なのか。それとも、魂、心、精神なのか。実に良かった。100年後の未来、他人の身体に魂を移植された一人の女性、彩乃。未来ではルドンク病という、精神が死ぬ病気が流行る。その病を研究していた小笠原霧恵に病が…彩乃の精神が宿ってからの物語。時は2017/12/20 午後10時5分38秒に首都圏大震災が起き、彩乃は亡くなる。2114/5/19、ルドンク病になった霧恵に最新の医療で彩乃の魂が入れ替わるが…。過去から来た彩乃が、心から慕う人との運命、100年経って小さな光が遮られず巡り逢う感じが良い2017/08/16