内容説明
二〇四五年、北関東の町「院加」では、伝説の奇岩の地下深くに、核燃料最終処分場造成が噂されていた。鎌倉からきた十七歳の少年。平和活動をする既婚のカップル。不動産ブローカー。役場勤めの若い女とボクサーの兄。海外派兵を拒む兵士たち。そして、奇岩から墜落死した少年の母……。日本の現在と未来を射抜く長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょき
46
2045年、関東北部にある院加町には伝説の奇岩「望見岩」があった。近くには軍の基地があり、使用済み核燃料の最終処分場が建設されつつあっった。そこで暮らす人たちの物語。日本の政治や軍隊、原発への風刺が多分に込められており、たくさんの純文学的エピソードで構成されている。ユーザビリティが低く、読者に楽しんでもらおうというよりも、楽しみ方と面白みは読者に委ねている感じのドSっぷり。三人称視点の小説なのだが何故か、三宅太郎さん、田中キヨシさんだけが敬称なのが気になった。2017/03/19
Tadashi_N
30
確実に現在とつながっている近未来。人工知能、報道管制、欺瞞、あまり明るくない。2017/05/02
信兵衛
22
言葉の言い換え、大丈夫と明言する口調の裏にある騙し、その言いなりになってしまう恐ろしさをこれ程までに感じさせてくれる未来小説はありません。2017/03/30
Tui
21
近未来小説を不定期に読んでいる。この世界が今後どうなるかヒントを得たくて。だけど、ガジェットばかり描くのにかまけて、その時代の人々の姿をありありと想像できる作品は数少ない。この本は、日野啓三『光』以来久しぶりに出会えた素晴らしい作品だ。2045年、日本には国軍が存在し「積極的平和維持活動」(≒戦争)を行なっている。そしてある日、ついに「テロ支援諸国」に対し宣戦を布告する。正直ろくな未来じゃないが、その理由を著者はある登場人物に代弁させている。すなわち、悲観論は外れることに存在意義があるのではないか、と。2017/05/02
aloha0307
16
時代設定が本書の要 2045年 現代の地続きの近未来での高度管理社会に背筋が凍ってしまう。自動車自動運転は実現していた。肌感覚を超えて巨大化する社会システムは不気味さをどんどんましていく。とどめは憲法がすでに改正され、戦争は「積極的平和維持活動」と言い換えられているところだ。しかし現在の原発問題や右傾化政策への批判の安易な展開になっていないのは筆者の力量だ。”この先、人類はもう滅びるしかない” その科白には不思議に暗澹さはなく、ひたすら哀しさだけが胸を覆いつくす。2017/06/11