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内容説明
水の音と共に闇の中で目覚めた死者、滋賀津彦(大津皇子)。
一方、藤原南家豊成の娘・郎女は写経中のある日、二上山に見た俤に誘われ女人禁制の万法蔵院に足を踏み入れる。
罪を贖う間、山に葬られた滋賀津彦と彼が恋う耳面刀自の物語を聞かされた郎女の元に、「つた つた つた」滋賀津彦の亡霊が訪れ――。
ふたつの魂の神秘的な交感を描く、折口の代表的小説。
折口信夫の弟子で折口学の研究者として著名な故・池田弥三郎氏による詳細な補注、さらには作品執筆のきっかけとなった『山越阿弥陀図』および『當麻曼陀羅』をカラー口絵に収録。『死者の書』の決定版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
85
「大津皇子の亡霊と藤原南家の娘郎女の話」であるということがわかるまでページを何回往復したことか(泣)。読み進めるのがなかなか困難でしたが、古代の大和の地に思いを馳せながらの感慨深い読書となりました。2025/08/15
HANA
58
読友さんとの間で話題になったので何度目かわからない再読。あまりに有名な冒頭の一文から、魔術にかかったように内容に引き寄せられる。呪言のように語られる独特の言葉使いとそのリズムにはひたすら酔わされ、冥界から帰り来る大津皇子と郎女の魂の交感に引き寄せられる。やはりこの文体あってのこの物語であるし、文章の魔力というものをまざまざと思い知らされるなあ。本書は注釈も極めて詳細で、作品の理解を助けられる。ただ惜しらむはそれが章ごとに付いているため、文章のリズムが中断させられる事。出来るならば巻末にまとめて欲しかった。2018/11/15
井月 奎(いづき けい)
46
当麻寺に伝えられる中将姫の物語に着想を得たこの世の宝です。星の煌めき、鶯の音、蝶の羽の美しさを言葉で伝えられるのが詩人でのみ可能なように私の筆ではこの清い水のごとき物語を言い表すことはできはしません。亡くなった人、生きている人、涅槃に向かう人たちの存在があるところで交わい、ある所では遠くはなれて行きます。その律動が目に、心に響き音楽のように私を酔わせるのです。一読したのち、ただただ日の落ちる西へと目を向けるばかりでした。2019/02/18
すみれ
26
天平十三年、南家の藤原郎女お生まれになる、前後しての物語。賢しくなり過ぎた世に語部の嫗の語りは姫の耳へは届く。姫の祈りは、貴なるゆえ聡きゆえ純なるゆえに、ただひたすらに一途で美しい。俤人は、滋賀津彦、隻別、天若彦であり、仏であり神であり、中将姫の時空を超えた祈りと恋とはどちらがどうとも分かち難く感じられる。「おいとおしい、お寒かろうに」と。そのお気持ちは月の光を受けた清らかな曼荼羅に顕現したのだろう。今まさに聴こえる鶯の声は、「ほほきほほきい」と美しく尊く胸に響く、姫の一筋の涙に万感の思いを寄せると共に。2019/05/05
もえ
17
映画『かぞくわり』を観て、この本に行き着く。文体が古語調で歴史的背景も知らないとかなり難解だが、注釈とさらに詳しい補注があるので、ある程度理解することができる。私はさらに近藤ようこさんの漫画も読んでから原作のこの本を読んだため、すんなり入って行けた。解説にもあるが、大津皇子と中将姫の恋物語を同性愛者でもあった折口信夫が恋する乙女の気持ちで書き上げた傑作である。難解なため、生前は受け入れられなかったらしいが、その世界観は素晴らしく、読後も余韻を残す究極の恋愛小説である。 2020/03/21




