内容説明
夜の庭にふいに現れた一匹の猫。壁を抜けて出現と消失を繰り返す猫はパラレル・ワールドを自在に行き来しているのか。愛娘を失った痛みに対峙しつつ、量子力学と文学との接点を紡ぐ傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
koji
15
シュレーディンガーの猫は、量子力学は「重ね合わせの原理」のために“残忍な箱”の中で、猫は「死んでおり且つ生きている」と推定されるというパラドックスに陥るというもの。これを導きの手として、作者は「死んでいると同時に生きている」寓話を丹念につくり上げていきます。ヒューエヴェレットの「バラレルワールド」、ヴォルテルールの哲学コント等一見取っつきにくく感じますが、丹念に読むと希望が見えてきます。例えば、「普遍的な英知の営みとは幸福を目指して謙虚に働くこと」等分かりやすい言葉が現れてきます。何度も再読したい一冊です2017/10/17
rinakko
13
素晴らしい読み応え。“シュレーディンガーの猫。それは、古典物理学と重力の法則におけるニュートンの林檎のようなものだ。”…と、なるほど。哀惜と喪失感を湛えた内容だが、その静かな語り口による深い思惟を追っていくのは不思議な心地よさだった。そも量子力学とはなんぞ…と私はそこから覚束ないのに、眉毛が繋がって捩れそうになりつつひき込まれる。「重ね合わせの原理」(そして怖ろしいパラドックス)のこと、出現に先立つ消失、儚いパラレル・ワールド、どこからやってきたのかわからない猫への愛おしさ…。2017/07/27
em
10
夜に立ち去り、昼に戻ってくる猫を観察し、考える男。それは、ボルヘスと多世界解釈の物理学者エヴェレットが一文の中で語られるような類の思索。現実世界の実在の不確かさという穴に落ち込むよりは、淵からのぞいている人の態度。執拗な理屈っぽさと感覚的なところがないまぜになった感じは、私が知っている(と思っている、一部の)フランス文学を思い出させてくれて、久々に楽しみました。2017/08/13
いきもの
7
哲学的な私小説。あるいは猫についての思弁小説。シュレディンガーの猫の思考実験を起点にして思考を巡らしていく。2021/05/06
kurupira
7
読み易い円城塔な感じの印象。量子力学な理系作品でなく、美しい文章の文学作品かな。重ね合わせ、、ネコ、、うちのネコ達は最近寒いせいか、布団の上で重なった状態で寝てる。。ガラも似てるので、カオスな状態。。2017/12/23