内容説明
学徒出陣が目前の九大生を描いた自伝的作品。
太平洋戦争の最中、昭和18年、九州大学に通う文学青年たちには深い交わりがあった。
文学的揺籃期における恩師・伊東静雄(詩人)から受けた薫陶、そして、学生仲間(島尾敏雄がモデルの小高、森道男がモデルの室、林富士馬がモデルの木谷)との交流が描かれている。
遼史を読み、東洋史の学問にも励むが、それ以上に仲間たちと文学を論じ、酒を酌み交わしながら、それぞれの仄暗い“前途”を案じている。
主人公の文学的形成の様を、約1年に渡り、日記スタイルで描いた“第三の新人”の代表的作家・庄野潤三の青春群像作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こうすけ
15
庄野潤三が、戦時中の文学青年だった頃を振り返って書いた、日記形式の自伝的な作品。昭和18年が舞台なので、仲間同士ビールを飲んだり餅を食ったり、まだ若干の余裕がある。戦局が激化する手前の、モラトリアムな暮らしぶりを描いているのがまさしく庄野潤三的。皆、持ちつ持たれつで飯や酒、たばこをおごりあう。この時代の文学青年は、同人誌を作って小説を発表したり、偉い作家先生の家を訪ねたり、なかなか楽しそう。わが心の一冊である大菩薩峠と、最近好きな作家・木山捷平の話が出てきて嬉しい。楽しいけど、どこか切ない小説でした。2023/07/28
ゆかっぴ
7
戦時中の大学生の生活の一端が垣間見れます。日記のようなかたちで生活の細かい部分が記され、食べたり飲んだりしたもの、恩師や友人たちとのやりとり、文学に対する思い、家族との関係など興味深く読みました。2018/07/04
みや
2
著者自身の文学的基礎を固めた九大時代の交遊記録。昭和17年から18年にかけての日記という形式をとり、若者たちの未来への兆しを描く。学友だけでなく恩師・先輩との思いやりあふれる交わりの豊かさには驚かされるが、そこには死に直結する出征が身近に迫っていることにより増幅された連帯感があるように感じる。学生らの多くが純粋に国のために尽くすことを厭わない様子なのに、刹那的にならず自己確立に奮闘しているのが胸を打つ。入手しにくい昭和の作品を復刻する小学館のこのシリーズは、軽量かつ字が大きくて大変ありがたい。2019/01/02
はるたろうQQ
1
庄野文学には異例だが、不満や嫌な思い等が明確に書かれていて少々不思議な気がする。戦時中の食糧難のせいか酒や食物の話がやたらと出てくる。幸福な家庭に育ったことも良く分かる。友人逹と毎日の様に会って話をするが、良く話すことがあるなと感心する。出征までの限られた時間と感じていたからだろうか。師・伊東静雄は庄野文学の本質を艶な味の、凄愴味のない文学と言い、「小説というのは、・・手のひらで自分からふれさすった人生の断片をずうっと書き綴っていくもの」と教えた。庄野潤三は生涯これを忠実に実践した。その師弟愛に感動する。2020/07/15