内容説明
イエズス会士ジャン=ジョゼフ・スュランは、〈ルダンの悪魔憑き事件〉において悪魔に憑かれた神父として知られる。彼は、この事件を発端に、15年以上にも及ぶ心身の危機的状況を通じて、その身に数々の超常の体験を被った。
本書は、中世と近代のはざまの時代を駆け抜けたスュランという神秘家の、劇的な魂の道程をたどりなおすことで、従来の神秘主義理解を刷新し、宗教哲学・思想研究の水準を一段押し上げる野心的論考。
感想・レビュー
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松本直哉
21
小説『尼僧ヨアンナ』で描かれた「ルダンの悪魔憑き」の尼僧ジャンヌと僧スュラン。小説は悪魔がジャンヌからスュランに乗り移ったところで終っていたが、実際のスュランはその後長い暗闇のような鬱状態を経て、少しずつ言葉を取り戻し、超常の独占的な神秘体験ではなく、しがない信者とともに暗闇の中を歩む信仰のなかで、去ってしまった不在の神を待ち望み、語りえないものであるからこそ語らずにはいられない、宙づりの神秘主義に到達する。生涯にわたったジャンヌとの書簡のやり取りは、一人称ではなく二人称の、語りかける信仰を彼に可能にした2020/07/11