内容説明
急激に変貌していく戦後日本を背景に新しい感性による現代文学の興隆を牽引し、短い作家活動のうちに数多くの鮮烈な作品を残した山川方夫。その早熟ぶりが同世代の仲間を震撼させた学生時代の作品から、時代を先取りしたモチーフや研ぎ澄まされた文体によってジャンルの枠を超えた才能を開花させた後期作品まで、不慮の事故による早逝が惜しまれる著者の多彩な魅力が凝縮された傑作選。
目次
娼婦
春の華客
遠い青空
海の告発
にせもの
お守り
猫の死と
月とコンパクト
旅恋い
解説 川本三郎
人と作品 坂上 弘
年譜 坂上 弘
著書目録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
85
9篇収録の名作選。よく確認せずに借りたが、既読は「お守り」のみと、この本を選んで正解だった。どの作品も人間の孤独さが根底にあり、だから私は山川方夫にとても惹かれたのだと再認識。冒頭の「娼婦」、見ていられない後味の悪いラスト、何とかしてあげられないものかなんて思っても誰にも救えない、結局は本人の問題。「もう職場では何も言うまい」気分が高まってしまった今日みたいな日はまた格別な味わい。誰かを助けてあげたいなんて欺瞞だし、意に沿わぬ結果になりがちな仕事に心乗せてる私の自業自得だったよ。ありがとう山川方夫。2022/04/04
ぐうぐう
26
わずか三十四年の人生。小説を書くことができた期間は、たったの十年。しかし、山川方夫の残した作品は、その輝きをまるで失うことなく、鮮烈な存在感を今も放っている。しかもどれも、山川方夫しか書けない物語なのだ。本書に収録された作品のほとんどが、二十代に書かれたものだとは到底信じられない。山川の達観は、人生との、世界との、他者との、そして自分との決裂を導く。その絶望に、しかし山川は身を委ねるわけではない。抗うのだ。いや、決裂を認めることで、肯定することで、解決を見出そうとするのだ。(つづく)2017/06/20
くさてる
22
濃密な文体と人間描写に、古い文学っぽいなあと思っていたけれど、「にせもの」がすごかった。時代関係なく、というよりは現代だからこそ、よりここで描かれている男性の心理描写が真に迫るのではないかと思う。寒々しく、孤独で、狂った世界。「旅恋い」の引退して何不自由なく旅行三昧な高齢女性の心にひそむ闇の生々しさも同じく。やはりすごい作家だと思う。2017/12/07
ゆかっぴ
4
どれを読んでも人の心の奥底にあるものがあぶりだされてくるようです。自分の中にあるいろんな思いに気づかされるようでした。とてもよかったです。2018/09/15
Y
1
とても良い短編集。ここまで作品のテーマやモチーフが異なっていながら、どの作品のクオリティが等しく高い短編集ってそうそうないのではないか。他人との隔絶・孤独感を強かに感じながら、なおも手放せない愛。その内心の相剋がひしひしと感じられた。文章は理知的で読みやすく、明瞭だった。「遠い青空」読了後のあのなんとも言えない感じは読まないときっと分からない。2023/05/17