内容説明
ホロコーストの多くは、戦前のドイツ国境線の外で起きたことであり、ユダヤ人は、現実には死の穴の縁で殺害され、収容所ではなく、特別なガス殺の設備で殺害されたのだった。
そして、殺害に携わったドイツ人の多くはナチスではなかったし、そもそも殺害した者のほぼ半分はドイツ人でさえなかった ――。
極限状況における悪(イーブル)を問い直し、未来の大虐殺に警鐘を鳴らす世界的ベストセラー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイス
84
ホロコーストにドイツ以外の周辺諸国がどう関わったかを考察する。アウシュヴィッツばかりがクローズアップされる中、ウクライナやバルト三国のナショナリストたちのナチへの協力といったファクトを検証する。ソ連に蹂躙されたあとやってきたナチに対し、彼らはある意味率先して協力したという。暗黒の時代のわずかな光明はユダヤ人を救おうとした人々の存在。彼らは戦後多くを語らなかったという。当たり前のことをしただけ、という稀有な人間を著者は「善の凡庸」と記す。これはもちろんアーレントの「悪の凡庸」に対比させた言葉で深く刺さる。2023/09/05
BLACK無糖好き
14
本書はホロコーストに関する上っ面の概念を剥ぎ取り、いつ、どこで、誰が、どのように引き起こしたのかを改めて読む者に突きつけると共に、それに抗した人々のメンタリティも解き明かす。一方で本書の一番の肝は最終章で綴られた21世紀の現代社会への警告であろう。気候変動・食糧危機等の地球規模の問題から起こり得る、あまり想像したくないスケープゴート等混沌とした世界。将来の人類の生息地の向こうにヒトラーの唱えた生存圏の概念がうっすらと見えて思わず背筋が寒くなった。 2016/09/15
さえきかずひこ
8
国家が完全に崩壊した地域でこそ、ユダヤ人の大量殺戮が行われたと繰り返し述べるのは上巻と一貫している。下巻ではアウシュビッツについて描いており、むろんポーランドが舞台なのだが、アウシュビッツ≠ホロコーストであるという指摘にも頷かされる。終章では、現在の地球規模での諸問題を列挙しつつ次のように述べる。「仮に我々が真摯に救助者を見習おうと考えるなら、我々は予め、我々がそうできる可能性をより高める政治的な構造を築いておかねばならない」(167頁)。その為に、ホロコーストに至った思考の道筋を学ぶ必要があるんですね。2017/12/19
刳森伸一
6
上巻の内容を引き継ぎ、ホロコーストは無政府状態となった場で行われることを繰り返し主張する。アウシュビッツの体験記などを読むと、ドイツは組織的、体系的にホロコーストを行ったように見えるが、実際にはホロコーストの多くが無政府状態の中で行われており、組織立ったものは比較的少数であったというのは、蒙が啓かれた思い。最後にホロコーストを誘発しかねない現在の諸問題について論じているが、概して東アジアとアフリカに厳しく、作者の母国であるアメリカ合衆国に甘いのが気になるところ。2019/09/04
Rusty
6
ヒトラーの世界観は政治と科学(欲求と生物学)を混成したものである→先進国の中で最も気候変動を否定する人が多いのがアメリカ合衆国、ユダヤ人・スラブ人・ゲルマン人といった民族の分断=ルワンダにおけるツチ人とフツ人のような政治的な民族分断→虐殺を生む要因となったなど、トランプ政権が誕生した今、市民のためにあるべき「国家」(権力の制限)と「権利」について、ますますホットな内容になっている。そして今後まず考えたいのは、このPost-truthのはびこる社会において、どの「科学」を、どう信頼(優先)し選択すべきか。2017/02/01
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