内容説明
父と子。男と女。人は日々の営みのなかで、あるとき辻に差しかかる。静かに狂っていく父親の背を見て。諍いの仲裁に入って死した夫が。やがて産まれてくる子も、また――。日常に漂う性と業の果て、破綻へと至る際で、小説は神話を変奏する。生と死、自我と時空、あらゆる境を飛び越えて、古井文学がたどり着いた、ひとつの極点。濃密にして甘美な十二の連作短篇。 ※当電子版では対談「詩を読む、時を眺める」は収録していません。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
103
現在と過去、男と女、我・彼・彼女が混然一体と融け合ったマーブル模様。でもその模様は、なんだかよく分からないけど美しい。文体も徹底的に個性的だが、読んでるうちにクセになる。2017/08/26
優希
77
生死、自我、時間を超えてたどりついた文学という印象を受けました。日々の中で差し掛かる辻をどう選択して生きていくかで奏でられる神話のような短編集。濃密で甘美が世界が広がっていました。2018/05/07
syaori
60
連作短編集。物語には父と子、母、病院、死んだ子供などのモチーフが反復され、場所は違うのに見覚えのある分れ道、辻に何度も行き当たって惑うような楽しさがありました。感じたのは自分の見る現実の危うさで、父を「殺したも同然だ」という評判が本人不在の中で「殺した」になることも、自分が「悪意の一瞥」を与えた男の妻を腕に抱いている事実が俄かに開けることもある。そんな風に、見ているようで見ていなかった事実に突然気づく「気味悪さ」所在なさを味わうような、楽しむような物語を堪能しました。知人との花見を思う『半日の花』が好き。2020/07/16
やいっち
57
読了して改めて感じたのは、やはり、かなり方法的であり自覚的だということ。 ちなみに表題の「辻」は、辞書によると、「1 道路が十字形に交わる所。四つ辻。十字路。2 人が往来する道筋。街頭」とある。いうまでもなく、小説では、道路や街頭ばかりでなく、人生の辻であり、家の内外の辻を意味する。辻は直角とは限らない。あらゆる角度で人は出会い交わり、あるいは交差し、すれ違う。 2019/08/19
わっぱっぱ
41
高い。直近だと塚本邦雄、三島由紀夫に比肩する敷居の高さである。これはあれだ、生半可に読んじゃいけないやつだ。超然的でうっかり好きも言わせてくれない大学の先輩みたいな感じ。やたら作法に煩い蕎麦屋で店主の顔を窺いながら食す蕎麦みたいな感じ。「文句があったらベルサイユへいらっしゃい!」(『ベルばら』)みたいな感じ←ちょっと違う。容赦ない場違い感にあえなく退散。と前置きして、雑感≫≫既視感に蝕まれる記憶・自我。畏怖や不安と混在する気怠さ。狂気?違う、凄まじいほど正気を貫く先に見える景色か。ぐらぐらする。2017/12/12