内容説明
【第二十四回伊藤整文学賞受賞作】妻の失踪を皮切りに、緒方の人生は転落の一途を辿った。失職、路上生活、強盗致死。そして二〇〇八年六月八日午前九時、緒方は五年の刑期を終え滋賀刑務所を出所する。自らの人生の意味を問い直すかのように大阪の街を彷徨い、やがて和歌山のとある村へと流れついた緒方。流浪の旅の末、彼が目にしたのは地獄か、それとも極楽か。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
113
ちょうど2年前にハードカバーで読みました。最近文庫本が発売されたので再読です。辻原さんの大ファンですが、やはりそれまでのイメージとは異なっています。ちょっとしたことで普通の人間はどんどん落ちていく感じで、気持ちが暗くなります。しかしながら辻原さんの文章はやはり第一級品で文学作品という気がします。2016/04/20
Yunemo
21
「やるせない」、と一言。明確にどこで間違えたのか、と邂逅しても、自身の選択にない偶然によりまっすぐに奈落へと。交錯する人たちが全て落ちて行ってます。回想からの物語にて、なぜ今があるのかを説明してますが、良い時期もわずかな期間、あったことも確か。現在に至るまでの悲劇が網羅され、この環境によって、この人生、とも言いきれず。やはり、95年の大震災、サリン事件については人々を何らかの方向に持って行った、そんな感じがしてなりません。この様にしか人生を生き得なかった、あまりに無残。最後の顛末も、心がかき乱されたまま。2016/01/17
とし
16
刑期を終えて刑務所から出るところで、この小説は始まります。辻原登さんの本作品は、決して明るくはありません。ずしりとくるものがあります。刑務所の記述や主人公が刑務所からでて行動するところなど、とてもリアリティがあり怖さもありました。震災もあり、主人公はいろいろなことを経験しています。人はどこで狂うのだろうか。運命がなにかの弾みで変わり、這い上がろうと、もがけばもがくほど泥沼にはまっていく。何名かの人たちの生い立ちから書かれています。人にはみせない闇の部分が生々しかったです。いろいろ考えさせられる小説でした。2016/06/18
rakim
15
久々に読み応えのあった一冊。一人の刑務所からの出所者の流浪の旅は・・・。彼の出会ういわゆる「娑婆」は実は地獄だったのか。彼等が罪人へ堕ちるきっかけの様々は、悪ばかりではなくこの世の不条理にもあると呆然としてしまいます。この本のテーマの中には「六道輪廻」があると確信しているのですが。自然環境・社会環境の不安定さを誰もが感じているこの現在を娑婆というのなら、最後の血まみれの緒方の表情の中には安堵があったのではないか、私自身の中にも共感するものが生まれたのではないかと震えます。2016/10/02
やすべえ
11
”どこで俺の人生躓いたんやろ?”ちょっとした事で道を段々外していく。それは抗いようがなく引き摺られる様に。描写がリアルで安心感がない今の世の中が怖いと思いました。いい小説だったのにラストが非常に残念です。やっぱり前向きに終わる小説が好きですね。でも辻原さんの他の作品も読みたいです。2016/12/26