内容説明
明治四四年、夏目漱石の推挙で「東京朝日新聞」に連載し、自身の結婚生活や師・尾崎紅葉との関係等を徹底した現実主義で描き、自然主義文学を確立、同時に第一級の私小説としても傑作と謳われる「黴」。翌々年発表の「爛」では、元遊女の愛と運命を純粋客観の目で辿り、文名を確立する。川端康成に「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋声に飛ぶ」と言わしめた秋声の、真骨頂二篇。
目次
黴
爛
解説 宗像和重
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まさ
27
徳田秋声の作品をきちんと読んだのは初めて。淡々と描かれる日常なのだけど、自然主義文学というのだそう。あらすじは?と訊かれて自分の口で話すと結構なドラマのようになってしまうのだけど、あまりそう感じさせないのがこの人の特徴なのだろう。新聞に全60回で連載されたことを想うと、当時の人たちは主人公お増の日々を日記で読んでいるかのように感じるのかな。2020/11/01
きょちょ
20
以前読んだ「仮想人物」が面白かったので他の作品を読みたくてやっと手に入れた。しかし、文庫本で2000円とはねえ。「黴」は私小説で、主人公はまさしく作者。時に情にほだされるところもあるが、我儘で猜疑心が強く癇癪持ちである。さほど愛情がないにもかかわらず、手伝いに来た女と関係を持ち妊娠させる。産んだ子供を他人にやり女を追い出すか、女房にするか迷うが、迷いのままさらに妊娠させてしまう。それでも迷う、そして頻繁に諍いが起こる、実に人間らしいと言えよう。「爛」は、浅井という男の情婦が主人公で、正妻にも問題があるが⇒2023/06/26
げんがっきそ
9
地味である。しかし私は、巧い小説だと感嘆してしまう。例えば私たちが「焦る」というのを「焦」を全く使わずに誰かに説明しようとすると、簡単なようで難しくはないだろうか。辞典で「焦る」を引いて言い換えられるが、機械的すぎて「焦り」が伝わらないことはないだろうか。 徳田秋声の凄味は、人物の行動や状態の描写で「焦り」を的確に私たちへ馴染ませられることだと思う。心理を描写で言い換えるのが上手すぎて、もはや言葉ではない気さえしてくる。 自然な人間を自然なままで私たちの前に顕現させる、彼の技量が素晴らしいと思った。2019/01/03
しんすけ
8
『黴』では愛情もない男と女の関係が、ただ語られていく。 物語など存在しない。しかし現実の男と女の関係を描くのに物語なんか必要ない。 スマホや低俗誌向けに物語が大量生産されているが、時間つぶしになっても役立つものなど皆無である。 もっとも秋声が残した作品が役立つことがあるのかと云えば、説明に窮するほどに表現は難しい。 考えることを捨てた現代人の大半には、秋声の作品は時間つぶしにもならず解読すらできず欠伸を招くに過ぎない。 しかし現実生活に物語はなく、日常の澱みは黴が湧くように生活を覆っている。2019/10/01
hasegawa noboru
4
〈笹村は女が自分を愛しているとも思わなかったし、自分も女に愛情があるとも思い得なかったが、身の周の用事で女のしてくれることは、痒い処へ手の届くようであった〉大方愛などなくても男と女の間は継続する。じょうじょうたる男女の情痴の機微は善悪倫理によっては進展解決しない。ただあるがままの現実は〈じれじれ〉ぐずぐずした日常として繰り返されるだけだ。明治末年と大正初期、男優位社会に守られた男の狡さ勝手さが鼻につくが、その男に頼って生きるお銀やお増たち女主要人物たちも、十分したたかで、いかにもあったそうに描かれている。2018/02/27
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