内容説明
明治四四年、夏目漱石の推挙で「東京朝日新聞」に連載し、自身の結婚生活や師・尾崎紅葉との関係等を徹底した現実主義で描き、自然主義文学を確立、同時に第一級の私小説としても傑作と謳われる「黴」。翌々年発表の「爛」では、元遊女の愛と運命を純粋客観の目で辿り、文名を確立する。川端康成に「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋声に飛ぶ」と言わしめた秋声の、真骨頂二篇。
目次
黴
爛
解説 宗像和重
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
まさ
28
徳田秋声の作品をきちんと読んだのは初めて。淡々と描かれる日常なのだけど、自然主義文学というのだそう。あらすじは?と訊かれて自分の口で話すと結構なドラマのようになってしまうのだけど、あまりそう感じさせないのがこの人の特徴なのだろう。新聞に全60回で連載されたことを想うと、当時の人たちは主人公お増の日々を日記で読んでいるかのように感じるのかな。2020/11/01
フリウリ
24
「黴」。1911(明治44)年の東京朝日新聞の連載小説。今の時代から読むと、男女関係や婚姻関係は旧いけれど、新開地の風俗を背景としていて、当時としては意外に新しかったのかも。主人公の笹村は神経衰弱で、子どもができて結婚に至ったお銀につらくあたる。出ていけ、出ていかないが続き、結局笹村自身が逃避を繰り返す。結末は、いつもは家に還る笹村の逃避行。笹村という人物像は、秋声その人とごく近いと思われ、小説家などという因業な商売人と、決して結婚してはならないことがよくわかる。楽しくはないけど、読み応え十分。62026/03/23
フリウリ
23
「爛」、1913(大正2)年。真面目に時代的背景を考えると、男の射精メカニズムのかつての対象たる妻、そして現対象者たる元・玄人の妾との関係を描く。しかし、当時の日本(だけでないが)では、貧しい男で頑強な身体をもつ者の多くは、工場や炭鉱などの過酷な現場で労働し、貧しい女で美麗な容姿をもつ者の多くは、女を売って労働していた。そういうなかでの、抜け目なく搾取して金儲けする会社員の射精メカニズムと、捨てられて狂気のうちに死ぬ妻と、捨てられかねない妾の物語である。小説の視点のほとんどが妾であるのが興味深い。62026/03/31
きょちょ
21
以前読んだ「仮想人物」が面白かったので他の作品を読みたくてやっと手に入れた。しかし、文庫本で2000円とはねえ。「黴」は私小説で、主人公はまさしく作者。時に情にほだされるところもあるが、我儘で猜疑心が強く癇癪持ちである。さほど愛情がないにもかかわらず、手伝いに来た女と関係を持ち妊娠させる。産んだ子供を他人にやり女を追い出すか、女房にするか迷うが、迷いのままさらに妊娠させてしまう。それでも迷う、そして頻繁に諍いが起こる、実に人間らしいと言えよう。「爛」は、浅井という男の情婦が主人公で、正妻にも問題があるが⇒2023/06/26
げんがっきそ
10
地味である。しかし私は、巧い小説だと感嘆してしまう。例えば私たちが「焦る」というのを「焦」を全く使わずに誰かに説明しようとすると、簡単なようで難しくはないだろうか。辞典で「焦る」を引いて言い換えられるが、機械的すぎて「焦り」が伝わらないことはないだろうか。 徳田秋声の凄味は、人物の行動や状態の描写で「焦り」を的確に私たちへ馴染ませられることだと思う。心理を描写で言い換えるのが上手すぎて、もはや言葉ではない気さえしてくる。 自然な人間を自然なままで私たちの前に顕現させる、彼の技量が素晴らしいと思った。2019/01/03
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