内容説明
西欧文学を学び、日本の古典に赴いた知の作家たち。豊かな言葉をもって、巧みな手法と仕掛けで物語を紡ぐ。堀辰雄「かげろうの日記」、福永武彦「深淵」、中村真一郎「雲のゆき来」他。
[ぼくが選んだ訳]
フランス文学を学んだ者がその富を創作に応用する。しかし彼らはフランス文学を学んだのではなく文学の普遍を学んだのだ。だから日本の古典を自在に用い、現代の日本を舞台にした巧緻な中篇を作り、また江戸期と今の京都を行き来する国際的な雰囲気の名作を書くことができた。――池澤夏樹
解説=池澤夏樹
年譜=鈴木和子
月報=堀江敏幸、島本理生
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
市太郎
70
福永武彦を中心に読む。というか、この本を選んだのは、ほぼ彼が目的であった。堀辰雄は一応読んだが私の教養の無さゆえ、十分に堪能できたとはいいがたい。福永の「深淵」「世界の終り」「廃市」はどれも素晴らしく、とくに「深淵」は、暴力と聖性の恋物語で興奮する思いで読んだ。もともと犯罪小説は嫌いなジャンルではないので、そういった事も影響しているのだろうと思うけれど、この「深淵」は必読です。何でも池澤夏樹のお父さんだとか・・・。中村真一郎は途中で挫折。またいつか・・・。2015/05/17
KAZOO
45
堀辰雄とその門下生の福永武彦、中村真一郎の作品が収められています。堀辰雄「かげろうの日記」「ほととぎす」、福永武彦「深淵」「世界の終わり」「廃市」、中村真一郎「雲のゆき来」が収められています。福永はすべて再読です。堀と中村は初読です。中村の作品は教養小説のようで私には非常に合いました。池澤さんが書いておられますが、堀だと「風たちぬ」、福永だと「草の花」を収めるのが常套的であるが、ここに収めているものから始めてさらにということで選んでいるようです。2015/03/28
ぐうぐう
23
堀辰雄の門下としての福永武彦、中村真一郎。その関係性で選ばれた三人ではあるが、全集の編集方針として池澤夏樹の掲げる、いわゆるモダニズム文学を象徴する作家としても、この三人が選ばれた理由が存在する。つまり、日本の古典を土壌にしながらも、そこにヨーロッパからの影響を積極的に取り込んだ、そのような小説であるということだ。『蜻蛉日記』を元に繊細な心理描写をメインとした小説に昇華させた堀の「かげろうの日記」と「ほととぎす」。カトリックという西欧の思想を物語に滲ませる福永の「深淵」。(つづく)2015/04/05
みっちゃんondrums
20
堀辰雄の2作品は、古典作品『蜻蛉日記』を元にした小説。男を待つだけの平安貴族の女はつらいね。福永武彦、三十年以上ぶりに読んでも、やっぱり好きだ。『深淵』に衝撃を受ける。信仰を持つ女が粗野な男にひと目で惹かれ、掠われる、荒々しい話。『世界の終り』は、次第に狂っていく妻の話。そして『廃市』、本心がわからずに行き違う男女。どれもエロスとタナトスというか・・・良い。中村真一郎『雲のゆき来』は、江戸期の詩人の評論めいた内容が全く頭に入って来ず、挫折、勇気をもって撤退(苦笑)。再挑戦?するかなぁ、しないなぁ。2016/02/28
starbro
18
池澤夏樹=個人編集 日本文学全集全30巻完読チャレンジ第三弾です。堀辰雄以外は初読みです。堀辰雄および門下生のグルーピングです。本巻を読みこなすには漢文・漢詩の素養も必要で、かなりハードルが高い状態です。池澤夏樹の編集方針は純文学中~上級者向けのようで、純文学初級者の私としては、「かげろうの日記」ではなく「風立ちぬ」の選択していただければ良かったなと思いました。2015/04/15