内容説明
『日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄うということですが一体それは真実でしょうか』──昭和九年の大晦日、銀座のバーで新聞記者・古市加十に話し掛けてきたのは、来遊中の安南国皇帝だった。奇妙な邂逅をきっかけに古市が皇帝の妾宅へ招かれた直後、彼の眼前で愛妾が墜死、皇帝は忽然と行方を晦ましてしまう。この大事件を記事にしようと古市が目論む一方、調査を担当する眞名古明警視は背後に潜む陰謀に気付き、単身事件に挑む──。絢爛と狂騒に彩られた帝都・東京の三十時間を活写した、小説の魔術師・久生十蘭の長篇探偵小説。初出誌〈新青年〉の連載を書籍化、新たに校訂を施して贈る。/解説=新保博久
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
青蓮
116
舞台は昭和9年の東京。奇妙な噂話が発端となって起きた一大事件。失踪した皇帝の行方、ある女の謎の死、狙われた宝石。500頁に及ぶ大作。登場人物達が入れ替わり立ち代り、入り乱れて展開していく物語は複雑な輪郭を描いて、まるで迷宮に迷い込んだように予測不可能。難しい言い回しも多く、ついて行くのも必死でしたが、十蘭が書きたかった魔都・東京の姿、雰囲気は存分に堪能することができました。本作品はあくまでも探偵小説。推理小説として読むと些か違和感があるかもしれません。言葉の贅を尽くした絢爛たる十蘭ワールドを是非。2018/02/05
penguin-blue
46
日比谷公園の噴水の鶴が歌を唄うという奇妙な噂、月光の中落ちてくる美女の死体、お忍びで日本に滞在する異国の王とそれを取り巻く怪しげな面々。謎がどうの、トリックがどうの、という問題ではなく、とりあえずどこへ転ぶかわからない物語と舞台設定の勢いでつい先へ先へと頁をめくる。何だか、昔二十面相や少年探偵団にわくわくしたあの感じ。今よりも東京の夜の闇が深く、濃く、その夜の暗さゆえに街の灯が妖しい明るさを放っていた時代。何より驚くのはそれが私たちが知っている昭和という時代の一部だという事だ。2017/10/31
まさむ♪ね
43
日比谷公園の青銅の鶴は水を吐き出し唄いだす。その適度に甘く適度に湿り気を帯びた唄声は、大晦日の渇いた魔都東京の地下迷宮に深くしみ込み、やがては遠く安南の地へとたどり着くだろう。哀れな追跡者の研ぎ澄まされた明晰さは恋の炎にわれを失い、持ち前のオプティミズムは見栄と権力によって蹂躙される。逃げ惑うのは安南皇帝とその大金剛石。嗚呼しかし、彼等はなす術もなく混沌の海へ放り込まれてゆく。そして正月、己が欲望にその身を焦がす悪魔たちが、明けの明星も美しい銀座時計塔に舞い降りた。すべてを貪り食い尽くさんと。2017/06/11
小夜風
33
【所蔵】「日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄う」という何とも幻想的な出来事で始まる長編小説。読みながらこれは喜劇なのか悲劇なのか判らなくなりました。どの登場人物も何だかとても愛らしく、読者の方でも愛着がわくのに、ことごとく裏切られて「そんなぁ!あんまりだ!」と叫びたくなりました。この話が戦前に書かれていることに驚きを隠せません。今放送されている警察ドラマにも通じる内容だと思うどころか、こちらの方が数倍も面白いと思いました。途中まで喜劇のつもりで読んでいたので、終盤の次々に起こる悲劇はちょっと辛かったです。2017/05/29
えーた
31
解説がいみじくも書いているように、これは単なる犯人当て推理小説のフェア/アンフェアにこだわって読むと少々肩透かしを食らうかもしれない。戦中の大日本帝国・帝都に安南の国王が革命軍事資金目的で王室の至宝を持ち込む。そこに新聞記者、警視庁捜査一課課長、王の妾、その妾の住むアパートのいわくありげな住民たちが絡んできて繰り広げられる、ユーモアと狂騒を入り交えたハチャメチャ一大群像劇として読んだ方が楽しいかもしれない。私はといえば、この小説の魅力は何といっても十蘭の流麗で独特な文体・講談調の語り口にあると思っている。2023/04/24
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