内容説明
「孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが!」
パリ郊外モンルージュ。主人公のヴィクトールは、まるで冴えない孤独で惨めな貧乏青年。誰もが勤めに出ているはずの時間、彼だけはまだアパートの部屋に居残っている。朝寝坊をして、なにもない貧相な部屋でゆっくりと身繕いをし、陽が高くなってから用もないのに街へと出て行く。誰かともだちになれる人を探し求めて……。
職ナシ、家族ナシ、恋人ナシ。「狂騒の時代」とも呼ばれた1920年代のにぎやかなパリの真ん中で、まったく孤立し無為に過ごす青年のとびきり切なくとびきり笑える〈ともだち探し〉は、90年もの時を経て現代日本の読者に驚くほどストレートに響く。かのベケットが「心に沁み入る細部」と讃えたボーヴの筆による、ダメ男小説の金字塔。 [解説]豊崎由美
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zirou1984
47
全て奪い去られてしまったって気分になったことはあるかい?自信も尊厳も全て朽ち果てて、冗談どころか本音すら嘲笑われる状況には?無いのなら残念なことに、この本の魅力を伝えることは叶わないのかもしれない。傷痍軍人手当で食い繋ぎ、「ともだちがほしい」と言いながら本当に望んでいるのは自分よりクズで不幸な人間。ヴィクトールが本当に恐れているのは孤独ではなく近づこうとしてまた遠くなる届かない他人との距離だ。お前は俺か。どん底の人生から生まれるユーモア。最低の人生を描ききることの出来る、最高の人生。クズ野郎文学の大傑作。2013/09/02
燃えつきた棒
38
帯に解説の豊﨑由美さんの【ダメ男小説の金字塔!】との言葉が掲げられている。 ダメ男連盟の一員として、これが読まずにいられよか?/ 大戦で負傷して傷痍軍人年金で暮らす孤独な青年ヴィクトールの「ともだちづくり顛末記」である。/ 【孤独がぼくを押し潰す。ともだちが欲しい。本当のともだちが!‥‥‥まあ、ぼくの嘆きを親身になって聞いてくれるのなら、情人だって一向に構わないわけだけれど。 一日中、誰とも話さずに街を歩き回ると、夜、部屋に戻るころにはぐったりだ。】/ 2023/09/16
空猫
31
100年前のパリ。傷痍軍人年金で暮らしている青年は、五体満足なのに働いていない事で近所からは疎まれている。 その境遇や貧 しさは何とも哀しいが、日がな一日ぶらぶら散歩したりしているのでなぁ…=_= 。いつも友だちや恋人になりそうな人を探しているその姿が、やる事が、考える事が、滑稽で自己中心的な処が妙におかしい。お気入りサンのレビューと表紙に惹かれて読んでみた。黒い犬がため息をついている様子が主人公をよく表している。タイトルは皮肉。自伝的小説。2024/06/12
いちろく
31
紹介していただいた本。ここまでのレベルの「駄目だこいつ…早く何とかしないと…」という主人公モノは久々。もちろん、助けて人間校正しないと、と言う意味ではない。本音の感想を書こうとしたら、主人公に対して罵詈雑言に有象無象のコトバが並ぶので略。ただ、人間ここままで行っちゃ駄目だ。でも、行く可能性がある。というケースあるじゃない?それを見せられた気がする。読書会でなければ、出会わなかったと思うタイプの本。紹介感謝!2020/08/17
長谷川透
28
書出しから主人公のクズっぷりに抱腹絶倒してしまった。読み進めれば進めるほど主人公のダメっぷりに拍車がかかる。ただ、事情だけは説明する必要がある。主人公は戦争で片手を負傷し、その補償金だけで生計を立てている。同情の余地が幾らかあるが彼が探すともだちは自分同等の、あるいは自分以下のクズ男である。自分並のダメ人間と仲良くすることが彼の慰みなのだろう。そういった人間を見つけて仲良くなろうとするが相手のリア充っぷりを見かけると激しく嫉妬するどうしようもない男。軽蔑を越えて憐みを越えて、この感情は言葉にしようがない。2013/08/14