内容説明
北面の武士佐藤義清(のりきよ)は、決然と出家した。忘れ得ぬ女院への激しい恋を秘め、仏の救いを願いながら歌に執着する懊悩の日々。源平の争乱の世に歌一筋、草庵閑居と漂泊の旅。矛盾と相克の末に西行は、わが心ひとつがついに捕えきれないことを悟る。人間西行を描いて深い感動をよぶ、芸術選奨文部大臣賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
78
芸術選奨文部大臣賞受賞作。激しい恋心を秘めたまま出家するという武士の心意気が凄いと思わされます。出家名西行として、源平の騒乱の中で歌一筋に生きる姿には心打たれました。矛盾と相克の感情が心を捉えきれなくなったことを悟ったことが人間味を感じさせます。人と時代の検証のみならず、伝承、伝聞、風説まで織り込んで語られるのでとても興味深く読めました。2017/12/13
ラスカル
18
西行の伝記小説。長らく積んでいたのを10月から読み始め、同じ出家者としての深い境地にさすがとため息をつくこと多い読書でした。そのさなかの寂聴さんの訃報。 西行の出家の原因は歌の道を極めたいというものではないかとの説。待賢門院が亡くなるまで京都周辺を離れず、奥州行きも四国行きも院が亡くなってからの旅だと言う。 最後の方での小夜の中山の解釈がうれしかった。秘めた恋と歌に生きた西行。晩年は歌も絶っていたとは、あまりに厳しい。2021/11/30
荒野の狼
3
日本国内を旅行すると、しばしば行き当たるのが西行ゆかりの地。特に西行を意識して旅行したわけでもないのに、気がついてみれば西行生誕の地から終焉の地(弘川寺p353)までをカバーしていた。この過程で西行関連の本を数冊目をとおしたが、なかなか血の通った人物像が自分の中で描けず、また、西行の人生の中で、どの旅が鍵となるものなのかを捕らえられずにいた。そんな時、本書を手に取ったが、私の上記のモヤモヤを一気に解決させる内容であった。2023/10/12