内容説明
離婚を繰り返し、生活に困窮して生活保護と年金で生きる老人の日常の壮絶。高齢化社会を迎えた今、貧困のなかで私小説作家は、いかに生きるべきか……。下流老人の世界を赤裸々に描きつつも、不思議に悲愴感はない。自分勝手なダンディズムを貫き哀感とユーモアを滲ませる、二十一世紀の老人文学。
目次
ムスカリ
ぼくの日常
明日なき身
火
灯
解説 富岡幸一郎
略年譜・著書一覧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
きっち
11
岡田睦(おかだぼく)、1932年東京生まれ。慶応義塾大学文学部仏文科卒。1960年に「夏休みの配当」で芥川賞候補。3度目の妻と離婚後、生活に困窮し、生活保護を受けながら居所を転々とし、『群像』2010年3月号に「灯」を発表後、消息不明。全5編収録。冬、暖房器具のない部屋で暖をとろうと洟をかんだティッシュで焚火をして(!)ボヤ騒ぎを起こし、ついにはアパートを追い出されるまでを描いた「火」が凄いが、担ぎ込まれた施設での日常を淡々と描いた「灯」も鬼気迫る傑作。いわゆる下流老人の呟きなのだが不思議と悲壮感はない。2019/03/31
ソングライン
7
60代で妻と離婚した小説家の主人公は、うつ病を患い、生活保護を受けつつ、施設を転々とします。話をするのは意地の悪いケースワーカーと昔の友人。家族を失い、未来の幸せを想像することができず、やがて訪れるのは死。そんな状況で、わが身の日常を小説として書き続けるのは、生への執念のためなのでしょうか。2017/10/27
犬養三千代
5
私小説、老人文学などと括りたくはない一冊。最後の「灯」には、黒田壽郎、美代子夫妻 実名て登場する。それを淡々と描くと捉えるか虚勢、未練と捉えるか?2017/06/12
マーク
4
30 私小説の極致。消息不明の小説家。生活保護で暮らす私小説。老人文学。「ムスカリ」「明日なき身」「灯」最後の作品が尋常な意味でまとも。ラストワードか再見、とは意味深。 明日なき身。途中から意味不明。自殺未遂、精神病、薬物依存。マーフィー。コンビニパートに難癖つける爺さん、やめとけよ。コンビニ出入り停止。こんなの出版できる?電気電話止められても煙草吸う。 2021/11/22
CEJZ_
4
1P16行。岡田睦、見たことも聞いたこともない作家だ。最初、名前の読み方もわからないし、氏名の漢字を見たとき、男なのか女なのかもわからなかった。経歴を見ると、2010年に作品を発表以降は消息不明とのこと。それは暗に生きているのか定かではないとのことか。生きていれば85才だが、どうだろう。私小説、生活保護、薬物摂取、貧困、生保ビジネスによる暮らしが窺えるが、悲愴感は少ない。故障した便所の対処など、むしろ面白い。いつか全集が出版されたら買いたい。これは3月に出た新刊だが、絶版になる前に大事にとっておく。2017/05/04