内容説明
吉原の廓の隣町を舞台に、快活な十四歳の美少女・美登利と、内向的な少年・信如の淡い想いが交錯する、一葉「たけくらべ」(新訳・川上未映子)。
東大入学のために上京し、初めて出会う都会の自由な女性や友人に翻弄される青年を描いた、漱石「三四郎」。
謎めいた未亡人と関係を重ねる作家志望の文学青年・小泉純一が、芸術と恋愛の理想と現実の狭間で葛藤する、鴎外「青年」。
明治時代に新しい文学を切り開いた文豪三人による、青春小説の傑作三作を収録。
【ぼくがこれを選んだ理由】
明治になって社会の重心は若い人たちの方にシフトした。いきなり未来を預けられた青年たちの戸惑いを漱石は「三四郎」に書き、鴎外は「青年」に書いた。「たけくらべ」の色調は江戸期への郷愁だが、その一方でこれはモダニズムの都会小説でもある。(池澤)
【新訳にあたって】一葉が今「たけくらべ」を書いたら絶対にこうなったにちがいないと信じきって&あの匂いあの話し声あの時間に持てるすべてを浸しきって、全力全愛でとりくむ所存です。(川上未映子)
解題・年譜・参考資料=紅野謙介
解説=池澤夏樹
月報=高橋源一郎・水村美苗
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
107
漱石の『三四郎』は先月読んだので、川上三映子訳『たけくらべ』目当て。原文が相当読み難いので現代語訳が出るのはいいことだ。雰囲気もよく出ている。美登利の心に抱えるものとそれを押し隠すかのような気の強さ、語りの正太郎の戸惑いや、長吉と三五郎に見られる親の関係が子供に及ぼす影響などがよくわかる。しかし、なぜ関西出身の彼女に訳を依頼したのかと思う。これは立派だが、現代語とは言え、もう少し江戸っ子気質、特に長吉なんかが信さんに下駄を貸すとこなんかそのキップの良さをみたかったかな。それでもやりとげた川上さんに拍手。2015/05/12
ケイ
103
鴎外の「青年」 三四郎と非常に似た構成。始まりは、鴎外や漱石をモデルにした人物が登場し、気がきいて面白いと思った。だが、純一が出会う女性達に次々に気をひかれ、あちこちに気が散り、大胆なようでいて何も出来ない様に、苦笑いしながら読み終えた。東京に慣れてお金を貸してくれと頼む友人が出てきたり、汚い宿で女性と同じ部屋になったり…、ここまでくると、漱石は当惑したのではないだろうか。さて、「知れきった事を殊更に偉そうに声高に言う者」を純一は嫌に思った。今も昔も、そういう輩は必ずいて、周りを閉口させるものなのだなあ。2015/05/12
KAZOO
68
この巻には、「たけくらべ」「三四郎」「青年」という明治の代表的な青春小説が収められています。ただ、「たけくらべ」は川上未映子さんの現代語訳になっています。それぞれ好みがあるのでしょうが、私は原文でもよかった気がします。確かにわかりやすくはなるのでしょうが、原文の持っているその時代の雰囲気がなくなってしまい気がします。私はこの3作のなかでは鴎外の「青年」が一番好きです。2015/03/22
Tonex
43
川上未映子訳「たけくらべ」のみ。▼途中まで読んで、これは樋口一葉の小説ではなく、川上未映子の小説ではないかと思った。文体が川上未映子そのまんま。調べてみたら、そもそも川上未映子は樋口一葉の影響を大きく受けているので、似ていて当然だった。▼江戸と明治と昭和がごちゃ混ぜになったような奇妙な文章。言葉の実験の面白さもある斬新な現代語訳。▼訳者あとがきに《読後、何もかもに置き去りにされながら抱きしめられるようなあの感動》とあった。ラストの余韻を「置き去りにされながら抱きしめられるような」と表現する言語感覚。2016/04/27
starbro
42
池澤夏樹=個人編集 日本文学全集全30巻完読チャレンジ第二弾です。中上健次だけで1巻ならば、夏目漱石、森鴎外各々で1巻ずつでも良いと思いますが、この辺りが池澤夏樹のカラーが色濃く表れているところかも知れません。賛否両論あるようですが、新しい読者を確保する上で、川上未映子の「たけくらべ」新訳のような企画が必要だと思います。2015/04/05