内容説明
1993年に誕生し、単一通貨ユーロの導入などヨーロッパ統合への壮大な試行錯誤を続けてきたEU(欧州連合)。だが、たび重なるユーロ危機、大量の難民流入、続発するテロ事件、イギリスの離脱決定と、厳しい試練が続いている。なぜこのような危機に陥ったのか、EUは本当に崩壊するのか、その引き金は何か、日本や世界への影響は……。欧州が直面する複合的な危機の本質を解き明かし、世界の今後を占う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
岡本
92
近年のEU危機について纏めた一冊。初心者向けではないのである程度の前知識が無いと読みづらいだろうが、情報量が多く為になる。ただ4章の「デマや虚偽は、イギリスらしさの対極にあるものと、ながらく観念されてきた」という部分を読んだ時には著者の言っているイギリスと自分が知っているイギリスが同じなのかと疑う程で、結果的に本書の一番の印象になってしまった。2017/06/01
かごむし
34
知っているようで知らなかったヨーロッパ。理念的には、世界は統合に向かっていくということは理解できるが、それぞれの国が主権を存しながらEUという連合体を形成することの困難さを知った。グローバル化と国家主権と民主主義、この三者は同時に実現しえないトリレンマであり、欧州に現実に起きている、通貨、移民、テロ、イギリスの離脱などの危機へ対応の中で、そのトリレンマが起きていると、本書では強調されている。ナショナリズムを越えて、周辺地域と真の意味で連帯していくことの困難は、いずれ日本も直面する問題になっていくのだろう。2017/07/09
異世界西郷さん
25
2010年のユーロ危機、13年のウクライナ危機、15年のギリシャ危機、そして今年のシリア難民、爆弾テロ、英国のEU離脱……。今、様々な問題に直面しつつある欧州の現状とその未来を考察する一冊。読み終えて思ったのは「なるほど。分からん! 」ということでした。ヨーロッパの政治に詳しくないとなかなか理解するのが難しいのではないかと思います。個人的に、英国のEU離脱は衝撃的だったのですが、実は前身のECに入った時から辞めるだの残るだのずっと言っていたというのは知りませんでした。2016/11/03
skunk_c
20
EUウォッチャーの第一人者ともいうべき人が、ユーロ、難民、テロ、イギリス離脱の4つの危機を複合的に捉えて解説した書。様々なファクターを丹念に解きほぐしながら、冷静で多角的な視点から論じている。EUの求心力が失われていった要因に、グローバリズムの進展によるヨーロッパ中下層の特に労働者の相対的経済地位低下があり、これに「デマクラシー」(デマに基づく多数意見の形成)が結びついていて、アメリカのトランプ現象(日本の政治状況も近い)に通じるものとする。このあたりは水野和夫の議論とかませると立体化するか。2017/01/03
koji
19
今から思うと、2005年私がドイツ・チェコ視察に赴いた時が、EUの絶頂期だったのでしょう。チェコ加入目前で、希望に溢れていました。しかし僅か3年後、リーマンショックで反転し、その後経済ばかりか難民流入、相次ぐテロ、英国のEU離脱表明等試練が続き崩壊の危機が現実化しつつあります。その中で本書はEU問題の本質を捉えたタイムリーな1冊です。複合危機とは、複数性、連動性、多様性を帯び重複し合成されていく状況を指しますが、私なりの理解では、根本はアイデンティティ、制度は通貨のみで財政の裏付けのなさが問題と思いました2017/03/16