内容説明
比類なき崩壊の詩情、奇蹟の幻想譚。スペイン山奥の廃村で朽ちゆく男を描く、圧倒的死の予感に満ちた表題作に加え、傑作短篇「遮断機のない踏切」「不滅の小説」の二篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
403
本書はスペインの現代文学なのだが、あたかも19世紀末の浪漫主義文学のごとき濃密な香りを漂わせている。そして、死への傾斜と親和性は、やはりローデンバックの『死都ブルージュ』を想起させるのである。また、全体を貫流するプロットがないわけではないが、次々と繰り出される断想を読者が追想してゆくイメージの流れは、小説というよりも散文詩に近いものだろう。物語の中で季節は移ろうが、全体としてはやはり冬の情景が支配的である。そして、冷たい月の光を背景に亡霊たちが彷徨うのである。 2018/07/20
buchipanda3
114
スペイン人作家による小説集。中でも大半の頁を占める表題作がとても印象深かった。静かにあらゆる感情を押し殺したような男の語り。そこにあるのは徹底した孤独感、徹底した虚無感。それでも詩的なリズムで奏でられる流麗な文章ゆえに読むのが止められず、妄執的とも言えるその世界へと入り込んだ。彼の記憶が遡り、徐々に明らかになるのはピレネーの山深い村での男とその家族の歴史。記憶と忘却の狭間で揺れる幻想と現実。毒蛇の巣の描写には呆然となった。やがて目の前は黄色に染まり尽くす。枯れて、その先へ。長い連なりの果てに尊さが残った。2022/05/22
雪うさぎ
95
教えてやろう、お前はもう死んでいる。お前はすでに記憶だけを残した魂となり、この世界を見つめるより他、術はない。朽ち果ててゆく村が見えるか?お前がいないこの村も又、孤独だ。そこに横たわる肉体と共に、やがては落ち葉に埋もれ地層となってゆくであろう。そしてその魂すらもいつかは記憶を無くし天へと還っていくのだ。だが、安心するがいい。一度生まれたものは、完全な無には戻らぬ。お前の魂が再び生を得たとき、この村に生きた思いが忘れられた遠い記憶となって、少しだけ色を帯びるかも知れない。 2018/10/20
NAO
89
【2021年色に繋がる本読書会】スペインの実在する廃村が、いかにして廃村となっていったかをフィクションとして描いた作品。村の住民たちが次々に村を離れていくのを見送り続け、最後の村人になった語り手の老人。秋になると、村にはポプラの枯葉が降りしきる。それは、黄色い雨となって村を黄色く染める。黄色い雨は死の象徴で、やがて来る荒廃の予兆でもある。静かな黄色い雨を見るたびに、語り手は出て行った人々、亡くなった人々を思い、死について考える。静かな静かな語り。村がなくなることを悲しむようにポプラの葉が降りしきる。2021/04/22
HANA
77
ゆっくりと滅んでいく村に取り残された老人と犬。台詞はほとんど無く老人の心理状態を辿る話であるが、この全編を覆う寂寥感や絶望感は只事では無い。ゆっくりと朽ちていく家々やそれをただ見つめる事しかできない老人、そしてその上にただ降り積もるポプラの黄色い雨。幽霊だけが日々の暮らしを繰り返していくが、それも現実なのか老人の幻想なのか。濃密な死の気配が覆っているが、同時にそれが何とも美しく感じられる物語であった。「遮断機のない踏切」もある意味取り残された男の話であるが、こちらは最後に大爆発があり幾分コミカルであった。2017/06/14
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