- ホーム
- > 電子書籍
- > 教養文庫・新書・選書
内容説明
院政期の上皇が、鎌倉時代の武士が、そして名もなき多くの民衆が、救済を求めて歩いた「死の国」熊野。記紀神話と仏教説話、修験思想の融合が織りなす謎と幻想に満ちた聖なる空間は、日本人の思想とこころの源流にほかならない。仏教民俗学の巨人が熊野三山を踏査し、豊かな自然に育まれた信仰と文化の全貌を活写した歴史的名著が、待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夜間飛行
19
険しい熊野路を歩くのはたいへんな苦行だ。そこではよく、亡くなった知人に会うというが、熊野は生者、死者を超えて人と人が関わる地である。古くから入水や焼身が行われ、また烏を死者の霊、祖霊、やがては神霊と見なした信仰が、熊野を死と再生の地に育てたのだろう。この地で熊野権現と出会った一遍上人は全国を遊行し、その後、時宗聖によって、照手姫が癩病の小栗判官を助ける伝説が広まった。苦しむ者や病める者がこの地に集まり始めると、彼らを助けることを己の救いや生業とする者も現れた。熊野というネットワークから学ぶべきことは多い。2013/06/23
はるわか
13
古代宗教はつねに死の深淵に直面した古代人の、死者信仰と死者儀礼を根底においている。熊野はそれをもっとも濃厚にのこしていたので、いつまでも「死者の国」の神秘を失わなかった。古代末期から中世にかけての熊野詣の盛行は、日本人の魂のふるさととしての「死者の国」へのあこがれがまきおこした特異な宗教現象である。2024/02/20
hide
10
熊野観光のお供に読んだが、地域ネタにとどまらず中世日本の仏教勢力や死生観などにも触れられていて思わぬ収穫だった。著者は仏教民俗学の大家らしく、明治の神仏分離令をきっかけに観光地化の影響もあって消えつつある熊野の文化(もう今日ではほとんど残っていない)を鮮やかに描いている。/湯の峰温泉や小栗判官にまつわる暗い歴史、ハンセン病の話がとくに興味深かった。観光系の説明では一切触れられていなかったので、この本を読まなければそんな背景があるとは夢にも思わなかっただろう。2022/11/17
猫またぎ
9
往時の熊野詣はとにかく歩くことだったのだろうけど、現代は乗用車や鉄道を利用したおいしいところのつまみ食い的な観光といってよいから。2023/07/16
かみしの
8
中世において隆盛を極め、現代ではほとんど顧みられなくなった熊野信仰についてフィールドワークを元に随筆調で書かれた本書。公的な伊勢と熊野の関係が神仏習合を経て変化したこと、またその変化が伊勢路から難路たる紀伊路への参詣ルートの移行に現れていること、歴史の闇とも言える時宗と癩病と熊野の関係などが、文学や絵を資料としながら語られる。熊野三山の基本的な説明(熊野三所権現など)は体系的には書かれていないので、入門書としては難しい。生と死が出会う場所、伊勢・熊野へ一度は足を運んでみたい。2013/08/03