内容説明
マクタガートの「時間の非実在性」は、A系列(過去、現在、未来)・B系列(より前、より後)のふたつの概念を導入し、時間が実在しないことを証明した論文として名高い。これまで日本には全訳がなかったが、ついに、本書が本邦初訳となって登場した。本書は、それだけではない。訳者・永井均氏が、段落ごとに詳細な注解と論評を加えている。訳者独自の付論も掲載。全訳とともに、こちらも必読。まさに「時間の哲学」の決定版だ!
目次
はじめに
第一部 時間の非実在性(本文)
第二部 注解と論評
第一章 A系列なしには時間はありえない
第二章 時間の本質であるA系列は矛盾しており、それゆえ実在しないから、時間は実在しない
第三部 付論
I A系列とB系列
II 矛盾はどこにあるのか
III 時計の針について
必要最小限の参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
へくとぱすかる
40
有名なマクタガートの名と、その時間論。初めてその全文を読んだが、50ページ弱の、想像より短いものであり、大半は訳者・永井氏による、マクタガート時間論の解説と展開になっている。原典とともに1世紀後の時間論の深まりを読めるわけである。これまで類書ではなかなか理解できづらかった、A系列とB系列の本当の意味と区別が、実は端的な<私>と、他人にも当然存在する「私」に類比できることがわかった。しかし、この構造の類似性はいったい何なのか。時間や<私>とは、さらに根源的な何かの現れなのか。と、ふっと読み終わって思った。2017/03/05
ころこ
39
マクタガートの論文の功績は、時間をA系列とB系列に分けて考えたことにあります。「現在」のあるA系列が本質であるが、時間の概念を使って時間の実在を証明しようとしているのは論点先取なので、時間は存在しないとしています。A系列の矛盾とは、A系列とB系列の間の矛盾だといえます。理由律と同じように、超越性を扱うとここでいう論点先取のようなことが必ず起きますが、哲学の魅力のひとつは、この思考不可能なことを思考することにあるといえるでしょう。永井の注釈は独自の考えが入り込んでおり、本文を換骨奪胎しています。ピンとこない2019/01/17
ドン•マルロー
19
時間とはあらゆる定理を秩序立てるための当然の前提条件である。つまり実在するかどうかという疑義があがるまでもない「公理」の部分なのだ。そこに懐疑のメスを入れようものなら、われわれを支えていたはずの足場はたちまちにして崩れ去り、宇宙空間のような広大な無のなかに放り出されてしまうだろう。マクタガードのなしたこととはつまりはそういうことだと私は解釈している。2017/09/18
月をみるもの
12
なせ永井さんが、この本を訳してるかと言うと、"マクタガートの「時間には矛盾がある」という主張とウィトゲンシュタインの「独我論は語り得ない」という主張は、それぞれ「現在」と「私」に関して全く同じことを問題にしており、実質的に同じ結論に達している。,,,,, その「矛盾」も「語りえなさ」も、我々の世界の成り立ちにとって不可欠のものである"かららしい。 なるほど。。。2019/05/26
渡邊利道
7
有名な論文で「やっと読んだ」という感じ。とてもわかりやすく、時間は無矛盾であることはできず、ゆえに実在しないという論証。永井氏の注釈ではA系列(より前、より後の区別)とB系列(過去・現在・未来)とのあいだをさらに精緻に論じていてとても面白いがややっこしい話でもある。でも明晰さは失っておらず、無限後退の議論が出てくるので、毒我論からアプローチするのかと思いきやそれと関連しつつもっと繊細な議論で大変面白かった。2017/07/07