内容説明
「ぼく」を通して語られる、いつか、どこかで暮らしていた人々の物語。
おばさんは幼い頃、「ぼく」の母親が窓から捨てた油で顔に消えない痕がのこるが、のちに、刑務所に入った父親、交通事故死した母親のかわりに「ぼく」をあずかる。
幼馴染みたち、アパートの飲んだくれのおじさん、月を見張っているおじいさん――。
富とは無縁の人々を、静かな雨が包み込む。「永遠」にめぐる世界を閉じ込めたかのような奇跡的中編。
第一五六回芥川賞を『しんせかい』で受賞した著者による、2014年発表の中編小説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
よっち@疲れ目注意☆彡
108
ジャケがとても美しい。半分ジャケ買い。あと半分は又吉さんのオススメと紹介されてたので。うーん、これ、芥川賞候補作だったの?ストーリーがあるような、ないような。絵画には、心象風景というジャンルがあるらしいけれど、そんな感じ。現実のような、夢のような、夢と現実の境界がないような感じ。夜寝て、朝目が醒める前の、夢現な感じにとても良く似ている。世知辛い現実の話もあるのに、不思議と現実味を感じない。まるで映画館でスクリーンを眺めているかのように、距離感がある。感じ、感じと、ここまでに何度も使ったけど、感覚的な小説。2017/09/06
pino
95
物語は現在と過去を行き来するので頭が混乱したが、いっそ時間から軸を外して読むとそれは心地よい混乱に変わった。ぼくの目が写しとる、ぐるりの光景に生きている(或いは死んでいる)並外れた人々は、私の記憶にある人々とどこか似ていて懐かしい。おそらく明度が低いであろう空間に置かれた原色の物たちが、さし色となって印象的だ。決して理想的とはいえないこの物語の世界をしばしたゆたってみたいと思う気持ちは現実逃避からではない。私に死がやってきた日には、この物語にさし色になって欲しい。「誰も死なへん。死なんでええんや」って。2022/05/19
そうたそ@吉
47
★★★☆☆ 「アメトーーク」の読書芸人で又吉が自分の十冊に挙げており気になって手に取ってみた本。人称、視点、時系列がコロコロと変わる山下さんの過去の作品と比べてみると、この作品もそういう面はあるものの、かなり読みやすい部類に入ると思う。ストーリー性というものを求めて読むと、訳がわからなくなってしまいそうな気がする。人の記憶をその人の視点から、ただただ辿るようなことをしてみた、そんな作品なように思った。ストーリーを辿るだけが読書ではない、と悟る意味では不思議な読書体験であったかもしれない。2015/08/04
Emperor
34
縦横無尽に時間、空間が転換する。その一瞬一瞬が美しい。文体にも装丁にもうっとりするが、いかんせん難解だ。2018/09/09
とら
32
流れる様にざーっと読み終わったけれど、そのまま内容も頭の中から流れていった感じは正直ある。でも主人公(この主人公というのも曖昧だけれど)もそうだったけど、結構正直に先の未来、この記憶は「忘れる」とか「思い出す」とか言っていて、何が印象的だったのかは分からないけど、印象的で覚えているシーンは所々あったりするのだ。石ころ線路に置いて脱線させたる!とか、電車で轢かれそうになったら消えてる、とか(ガンツっぽい!)。まあ何と言うか、最後に色々まとまるのかと思ったけど、繋がりそうで繋がらない感じが、良いのか悪いのか。2017/12/20