内容説明
嵐が過ぎ去ったクリスマスの朝、大聖堂の町から忽然と姿を消したエドウィン・ドルード。捜索の結果、河の堰で彼の懐中時計が発見され、以前からエドウィンと確執があり、前夜、一緒に河を見に行っていた青年ネヴィルに殺人の嫌疑がかけられる。だが事件の背後には、エドウィンの叔父で彼の許婚ローザに執着する大聖堂の聖歌隊長ジャスパーの暗い影があった……。19世紀英国の文豪ディケンズが初めて本格的に探偵小説に取り組み、その突然の死によって未完となった最後の長篇。阿片の幻夢、若い男女の交錯する恋心、深夜の地下納骨堂探検など、興味深い場面や人物を盛り込みながら、決定的な事件の日へと物語は進んでいく。また、ディケンズが初期作から追求してきた〈悪〉のキャラクターは、この作品において近代的に洗練され、複雑な魅力を放つ存在となった。残された手掛りからドルード事件の真相を推理する訳者解説も読み応え十分。原書挿絵を全点収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NAO
75
【誕生日読書】この殺人事件、実は犯人が誰なのかが、いろんな場面で暗示されている。何人かの良識ある人々が犯人の悪事を見抜いていることも。だから、まだ書かれなかった部分では、犯人がどのように追い詰められていくかが描かれたはずなのだ。さらに、殺人事件といいながらも、本当に死んだのか実は生きているのではないかということもはっきりしない。多方の意見は「死んでいる」らしいのだが、私個人の気持ちとしては、生きていてほしいなあと思う。債務者監獄でさまざまなタイプの人間を見てきたディケンズが描く悪人は、不気味で生々しい。⇒2021/02/07
かわうそ
22
謎解きに必要な材料があらかた出揃ったと思しきあたりで未完のまま終了。解説に寄らずとも犯人はだいたい想像できるし明らかに名探偵っぽい人物も登場しているので、この先は犯人を追い詰めるサスペンス的な展開になったのかななどと勝手な想像が膨らむ。ミステリ部分が主題の作品ではないのかもしれないけれど、解説を含め完結していないが故の楽しみは尽きないですね。2014/08/25
ぱせり
12
大道具小道具はほとんど明かされていると思うけれど、それらをどのように並べたら、はっきりした絵になるのだろう。さあ。というところで終わってしまう。ああ。でも訳者解説のあらゆる場面を想定しての推理・仮説をもう一つのミステリとして楽しむ。楽しみつつ、本編読了時よりさらに深い迷宮に迷い込んだような気がしています。 2014/07/01
Viola
5
ディケンズが執筆中にこの世を去ったため、未完に終わったミステリー。これを手にしたきっかけは、友人の代わりに鑑賞した同名のミュージカル。犯人を観客の投票で決め、その数だけ脚本があるという珍しい構成。本書の解説でもブロードウェイで大当たりと紹介されているが、日本でその後上演されるとは予想外だっただろう。本書は初版本での挿絵をそのまま採用、ディケンズが描かせた表紙絵も掲載し、謎解きと、書かれるはずだった後半の予想もたっぷりの、充実した解説にもう一度読み直してしまう。アヘンや教会の堕落などの風俗と人物描写が豊か。2016/05/09
植岡藍
3
いろんな手がかりがひと通り示されてさあこれから!という所で幕引き。狙ったものでないのにタイトルを「謎」としているのが作品自体を完全に表してて不思議な感覚。犯人との対決ももちろんだけどビリキン対トゥインクルトンにもきっと何かの解決があったのだろうなあとか想像が膨らむ。人物ではジャスパーの造形がすばらしいですね。2015/08/10