内容説明
「シャボテンは、──この不思議な植物は、それが生えていた砂漠の、人煙絶えたはるかかなたの世界の孤独を、一本々々影ひいて持って来ている。雲もなく晴れて刳れた空の下の、ただ焼け石と砂ばかりの世界に、淋しく乾いた音をたてて風が吹き抜けている」作家・龍膽寺雄は小説執筆の傍らシャボテン栽培に打込み、世界的な研究者となった。多くの入門書、専門書、写真集を刊行したが、中でも本書はシャボテンへの偏愛が横溢した随想集で、彼の説く「荒涼の美学」、「寂寥の哲学」はいまだ多くの愛好家を惹きつけてやまない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
99
今、サボテンや多肉植物がブームになっている。それと珍妙な形をいた珍奇植物も。この本は作家であり詩人でもある著者がそんなシャボテン達のことや人との関わり、ちょっと哲学めいたことなどが書かれている。冒頭古代アステカで様々な儀式に使われた烏羽玉と品種、長い時を砂漠ですごす奇想天外という植物、年に数ミリしか雨が降らない南米に育つコピアポア属のこと他、シャボテンにまつわるエッセイが滋味深くじっくりと読めた。載っているシャボテンのことはネットで簡単に見つけられるシャボテンにハマっている私には毒な本2022/11/12
tomi
31
戦前はモダニズム文学で活躍し、戦後はサボテン研究の第一人者だった著者のシャボテン偏愛随筆集。珍奇植物「ウェルウィッチア(奇想天外)」の栽培の試行錯誤など、広く多肉植物についても記述されているが、核となるのは、やはりシャボテン(サボテンの表記を好まなかったようで、サボテン科もカクタス科と表記)。曰く、「精緻をきわめた、まったく無駄なしに、必要ぎりぎりに設計された」造型はあらゆる近代芸術と共通の美を持っている。曰く、人間もシャボテンも荒涼は性に合った生きもので、生きる知恵とは「荒涼の美学」にほかならない―2024/05/05
タツヤ
3
サボテンや多肉植物の名前からその植物が分かる人は楽しめると思う。私はそこまで詳しくはないので、スマホで調べながら読んだ。写真が間に入ると尚いい。 知識も想像力もあると、サボテンや多肉植物でここまで話か広がるものなんですね。2020/07/10
Summits
1
サボテンと人は同時期に誕生した生物だから似た生態を持つのだ、としてそのエピソードを淡々と紹介してくれる。 シャボテンて言いたくなる。2018/02/08
端川
1
サボテンと人間とを一貫して対比させながら語ってるのがエッセイらしい仕掛けで、いちいちそれをやるのでうるさくはあるけど、サボテンの生態の奇怪さを分かりやすくして、おもしろく読めるようになっている。「人間ははじめから心に荒涼たる砂漠を抱いて生まれ、シャボテンは荒涼たる砂漠の環境に生みつけられて育ったので、どちらも、もともと、荒涼は性に合った生きものなのだ。だから、この双生児にとって、「荒涼」はもはや「美」なのであって、生きる知恵とは、ここでは「荒涼の美学」にほかならないのだ。」2017/11/06
-
- 電子書籍
- 小動物系令嬢は氷の王子に溺愛される【ノ…