内容説明
明朝第三代、永楽帝。甥である建文帝から皇位を簒奪し、執拗なまでに粛清と殺戮を繰り返し、歴史を書き換えて政敵が存在した事実まで消し去ろうとした破格の皇帝。その執念と権勢はとどまるところを知らず、中華の威光のもと朝貢国六〇余をかぞえる「華夷秩序」を築き上げた。それは前近代東アジアを律しつづけた中華の<世界システム>であった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゲオルギオ・ハーン
19
明朝の太宗 永楽帝について太祖 洪武帝との連続性、華夷秩序の形成をキーワードにまとめた一冊。洪武帝に評価されながらも後継者には指名されず、建文帝政権との対立をのりこえ、即位した苦労人の皇帝。洪武帝が国内新秩序を打ち立てたのに対して、永楽帝は国外の諸国に対して秩序を形成した。その華夷秩序という考え方と政策が面白く、室町幕府との外交も多めにページを割いているので世界史の理解が深まった。また、華夷秩序の形成に拘り、採算度外視のモンゴル遠征を繰り返したというのも一貫していて彼の思想は捉えやすい。2020/12/19
T2y@
12
ライフネットの出口さん著『世界史』で興味を持った永楽帝。 初の内閣制度採用と宦官重用。大航海時代前に海原を席巻した鄭和艦隊。 クビライ・ハンの有形・無形の影響など、明国中興の祖たる皇帝の功罪を知る。 が、最も印象深いのは、支配を進める上で行った、数々の残酷な刑罰と殺戮の様相。 生々しい歴史書とも言える。2015/04/10
nizi
6
永楽帝がなにを成し遂げようとしていたか、どのような思想の元、政務を執っていたかを解説。朱子学と華夷思想をベースに、外征を繰り返していたのではとの推察も含まれている。講談社学術文庫なので真面目な考察なのだが、著者がノリノリなのは永楽帝がくだした残虐な刑罰シーンであった。2025/01/26
鏡裕之
6
史学科の先生が書いた本というと、見ている視点(メタレベル)が低くて知的刺激が少ないものが多いのだけれど、壇上先生のこの本は、先生なりのパースペクティブが見えてよかった。元末から明への連続性。明の初代皇帝と第3代皇帝の目指したものの違い。ただ史実を並べただけに終わっていず、ある程度の高みから分析した議論も加えられているのが、知的欲求を刺激する。良書だね。 2013/01/26
MUNEKAZ
5
永楽帝の評伝。五度に渡るモンゴル親征や鄭和の南海遠征など華夷秩序の構築にこだわった治世について、甥・建文帝からの帝位簒奪の汚名を雪ぎ、正当化することに淵源があったとする。面白いのは永楽帝が目指し、超越しようとした相手を、唐の太宗ではなく元のクビライと見るところ。足利義満からの朝貢を喜んだり、ベトナムの内国化を推進するあたりは、著者の述べるようにクビライを越えようとする意志が感じられて興味深かった。2017/06/19