内容説明
『セールスマンの死』『るつぼ』などで知られるピュリッツァー賞作家が刊行した、晩年に発表した短篇小説6篇を収録した作品集。性の不思議な力を感じさせる表題作をはじめ、著者の自伝的要素が色濃く反映された作品群は、巨匠の全体を知るうえで避けて通れない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
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12
短中編六篇。思わぬ拾い物(アーサーミラーを拾い物扱い)だった。晩年の作品だがその若々しさに目を見張る。里犬を見に行った少年に期せず沸き起こる性欲と嘘「ブルドッグ」。ヒトラーの前で踊らねばならなくなったユダヤの娘「パフォーマンス」。30年前に出会った破天荒な米国人を探してハイチを再訪する「テレピン油蒸留所」。妻との思い出のビーチでsexする男女を見る「存在感のある人」G・オーウェルの「象を射つ」あたりと記述対象との距離感が似ているように感じたが、時にアーサー翁の筆先から迸る性の残滓が異様な印象すら与える。 2020/11/08
kankoto
10
最初の「ブルドック」を読んで久々に衝撃を受けてその曖昧なうまく表すことの出来ない心理状態と言うか感情と言うかこんなにうまく表現されていることに驚かされた。それはどの作品についてもそうだし、単純に割り切れない気持ちがじわーっと伝わってきてしびれました。郷愁と諦念感、作者が85歳過ぎてから書き上げられた作品らしいけれど涼やかさとみずみずしさもある。そしてだからこそなのか記憶のなかの輝きのようなものがある。 風景とか状況とかもいいし、物凄く好きな世界。読み返してまた味わいたい。2017/03/15
ぺったらぺたら子
7
米文学に全く無知な私は全盛期の村上春樹みたいと何度も思ったり。文体は似ていないが。多分事件の起こり方と事件や他者との距離感が似ているのでは。2017/07/16
Tomoko.H
5
『パフォーマンス』ヒトラーの面前で演技し、絶讃されたのが人生最高の瞬間?だったユダヤ人ダンサーの話。『テレビン油蒸留所』理想に燃えて無茶な工場を始めた彼等は、もういない。妻も、工場も…。なんとも言えない感慨があるこの二つは、まあまあ。あとのは、拙くはないけど感心しない。こういうテーマに興味ない私には合わない。2019/09/12
yyrn
5
スタインベックと勘違いして手に取ったが(笑)思いがけず初体験してしまう13才の男の子の話とか、ヒットラーに気に入られた米国人タップダンサーが味わった夢と恐怖の思い出話しとか、裏庭の大きな池の排水口をせき止めようとするビーバーに悩まされる男の話とか、女性の裸体にフェルトペンで小説を書きつけることでかつての輝きを取り戻せそうになる作家の話とか、カリブ海の貧国ハイチを妻と旅をした際に出会った男のことを三十年後にふと思い出し再びハイチを訪ねる話など、粗筋だけでは到底伝えきれない実に味わい深い大人の小説6編でした。2017/03/01