内容説明
そこはかとないユーモアやはにかみを湛えたかざりのない文章でどこか懐かしいような風景を描き上げて多くのファンを持つ“小沼文学の世界”。季節や時代の移ろいに先輩の作家や同僚の教員、学生時代の友人など愛すべき人々の風貌を髣髴とさせる、この著者ならではの好短篇集。
目次
四十雀
槿 花
エッグ・カップ
鳥打帽
ドビン嬢
枯 葉
木菟燈籠
「一番」
入 院
胡 桃
花 束
解説 堀江敏幸
年譜 中村 明
著書目録 中村 明
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
愛玉子
28
小沼丹の本は、数えてみたら七冊持っていたのだが、この本を一番多く読み返しているように思う。思い出したことをそのまま書き記したような文章は、穏やかでしみじみと味わい深く、読むほどに自分の内が凪いでいくのがわかる。あの人に会った、こんな話をした、というような他愛もない日常の中に、するりと死が入り込む。ぽとり、と花が落ちるように、知っている人が居なくなる。ーーみんなみんないなくなった。これは、長い人生でたまさか袖すりあった人びとへの弔いの儀式、なのだろうと思う。不意に静寂が訪れる。そしていつか自分も、また。2021/02/18
YO)))
20
佳作。 『~かしらん?』『判らない』『記憶に無い』みたような言いぶりが、決して投げ遣りではなく、切ない余韻のある終止として響く。淡々、と見せつつ、語りがとても丁寧なのだと思う。 作中で言及されるチェホフの短編の風情をそのまま借りてきたような「胡桃」が特に良い。2017/06/28
いやしの本棚
20
メンタルの調子が良くないときは、心静かに美しい日本語をたのしむ。戦前・戦中・戦後の出来事といえば、皆川博子『蝶』や、片山廣子の短歌・随筆などとも時代が重なる。同じ時代をとらえる、切り口や語り口の違いも面白いなあと感じながら。随筆とも私小説ともつかない後期の小沼作品では、とにかく淡々と人が死ぬ。みんなみんないなくなって、四十雀や槿花を眺めているうち、死者の声がふと耳を撫でる。死者との距離が近い小説が好きだと思う。2017/01/08
ポテンヒット
14
小沼たん初読み。エッセイのような短編小説集。井伏鱒二に師事していたと知り、ああ、なるほど!と思う。スマホやネットのない時代のどこか鷹揚な空気を感じる文章。主人公がいつもの日々を送る中で顔見知りの死が伝えられる。〝みんなみんないなくなった〟ー平野レミさんも大好きな父の威馬雄や夫の和田誠を想い「みんな死んじゃったなー」と呟いていた。沈みゆく夕日を見ている時のような、もう少しこの時間を共有していたいのに、時間はいつの間にか過ぎて、自分ではどうする事も出来ないもどかしさや諦念といった気持ちを思い出した。2025/01/21
michel
11
★4.5。師の井伏鱒二、先輩作家、学校の同僚教員、学生時代の友人、飲み屋の主人…季節や時代の移ろいの中で作者が交わる人々を柔和な視点で描いていく。飾りない淡白な筆致ながら、深い余韻を与えてくれる。2021/09/24
-
- 電子書籍
- ヤンキーの俺、医者になる!【タテヨミ】…
-
- 電子書籍
- クリスマス・ローズを捜して【分冊】 5…
-
- 電子書籍
- 独身最後のプロジェクト〈シンデレラ・ガ…
-
- 電子書籍
- 起業家を目指そうか迷う君へ - ~20…