内容説明
島から一歩も出ることなく、判で押したような平穏な毎日を送る人々を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された謎の手記に記された、異常な愛の物語「人形」。上流階級の人々が通う教会の牧師の徹底した俗物ぶりを描いた「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」。独善的で被害妄想の女の半生を独白形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。平凡な人々の心に潜む狂気を白日の下にさらし、人間の秘めた暗部を情け容赦なく目の前に突きつける。『レベッカ』『鳥』で知られるサスペンスの名手、デュ・モーリアの幻の初期短編傑作集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
350
★★★★☆ デュ・モーリア初期の短編集。 正式デビュー前の作品もあり荒削りな部分は見られるが、読後に暗い余韻を残す印象的なものが多い。中には同じ登場人物が繰り返し出てくる作品もある。 救いのない話ばかりで、人間の心の暗部や人生の不条理さが描写されている。 素朴な村に暮らす夫婦に起こった嵐の日の悲劇を描いた『東風』、旅行者が人妻を夏の火遊びとばかりに弄び、去っていく様を男からの手紙を通して映し出す『そして手紙は冷たくなった』等の不倫ものが特にブラックで心に残った。2023/03/22
紅はこべ
158
男女間の溝、今流行りの言葉で言えば「乖離」を描いたものが多い。「満たされぬ欲求」は「賢者の贈り物」のパロディみたい。デュ・モーリア自身は上流社会の人なので、上流に取り入る俗物ホラウェイ牧師を描く筆が冴えるのは当然だが、同じ人が下層に沈む売春婦メイジーの心境を描く、幅の広い作家。笠貝ってどういう意味と思ったら、笠貝のようにしがみつくという、英語の成句があるのね。勉強になりました。2018/05/27
青蓮
119
短編14編収録。全体的に不穏な空気を纏った作品集であり、個々を見ると突然掻き立てられる狂気だったり、くすりと笑えるブラクックユーモア、男女の恋愛の機微や捻れた擦れ違いなど、人が持つ暗部を多彩に描いていて、どの作品も楽しく読みました。中でもジェイムズ・ホラウェイ牧師を主人公にした「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」は人間の欺瞞を描いた傑作。独善的で被害妄想が強い女性の半生を綴る「笠貝」も印象深い。全編を通して「こういう人いるよね」って思わせるところがまた怖くもあり、そのリアルさに感嘆してしまう。2018/01/26
(C17H26O4)
99
だいぶ後味悪いよ。男女の絶対的な分かり合えなさが突きつけられているようで。愛し合っていたはずの男女がすれ違い、あっという間に修復不能、罵り合うようになるまでの出来事と心理描写なんて、黒板に爪を立てたときのあのいやぁな音を聞いて、ザワっとする余韻が背中に長いこと残っているみたいな感じ。男女の話ではないが「メイジー」が特に良いと思った。描かれているのは、日常から目を背け、さり気なさを装い無理矢理テンションを上げて1日を過ごそうとする女の詰んでいる現実。2019/11/12
hit4papa
88
解説によるとデビュー以前、21歳頃に書かれた「人形」を含む初期の作品14編が収められているとのことです。全編ともに明るい未来をすかっと裏切ってしまうバットエンディング(サッドエンディングか)で、デュ・モーリアっぽいのですが、20歳そこそこから暗澹たる作品を書きつられている、その人となりに興味を覚えてしまいます。ひとの心のねじくれた闇の部分やエロッチックな感情を、第三者的になぞっているようなじれったさが気に入りました。翻訳もすばらしく(原文は読んでいないのですが)、作品世界と調和が保たれています(と思う)。2017/02/15
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