内容説明
のらくら者の大学生の語り手が執筆中の小説の主人公トレリスは、二十年も部屋にこもりきりの作家である。トレリスは自分が創造した作中人物を同じホテルに同居させ、監視下においているが、作中人物たちは自分の意志をもち作者の支配を脱して動きだし、物語は錯綜をきわめていく。小説の中の小説という重層的な語りの中にアイルランドの英雄伝説や大学生の日常を盛り込み、瑞々しい活力に溢れた豊饒な文学空間を創造した傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
134
とにかく読み終えたという感じ。話の中に話があったり、考えが飛んだり、一気に読まなくてはなかなかついていけない。そのややこしさは、どこかピンチョンを思わせるけれど、ピンチョンのようにこれを理解した先に何かワクワクしたものがあるかも、とは思わせてくれなかった。アイルランドがおそらくキーワードであり、重苦しい悲しさがそこはかとなく漂うが、当地の神話や妖精たちを楽しみともに戯れるには自分がまともすぎるというか、地にしっかりと足がつき過ぎているような気にさせられた。理解したとは言い難い読後感。2017/04/19
まふ
94
解説には①語り手はトレリスという作家を主人公とする小説を書こうとしている。②トレリスは彼自身の小説の構想を練っている。③その小説の作中人物はトレリスを題材とする小説を書くことによって主客転倒を試みようとする…、とある。どういうこっちゃ、と読んでいくとナルホド「入れ子」のような不思議な構造の作品であった。トレリスが一生懸命に書こうとしているそのこと自体が小説の作中人物によって裁判にかけられる、…一体どうなってしまったのか、1回読んだだけでは十分に理解できない。⇒2024/06/15
syaori
51
ダブリンの大学生が小説を書いていて、その主人公も小説を書いているという入れ子状の小説。物語ではケルトの英雄フィン・マックールや妖魔プーカが労働者風のファリスキーたちとかみ合っているような、いないような会話を繰り広げ、黒ビールと狂騒が繰り返される。『フィネガンズ・ウェイク』と同年発表のこの本は、ジョイスと同様アイルランドの死を悼んでいるのだそう。そうならばこれは何と楽しい哀しい通夜なのか。最後に表に現れる狂王スウィーニーの嘆き、エリンに広がるそれを眺めながら、当時のアイルランドに思いを馳せるしかありません。2017/05/18
NAO
51
作中の主人公が作家である作品を書いており、その作品の登場人物が作家に無断で勝手に動き出し新しい話を作り上げていくという、かなりややこしい三重構造。その三つの世界がとっかえ出現するという何とも奇妙な実験小説。作品の中にはアイルランドの過去の伝統文学や神話伝説から駆り出された人物たちが登場して、自由奔放に動き回っている。そんな中、近代的な人々と妖精や神話の世界の登場人物たちが入り乱れる様は滑稽としか言いようがないが、アイルランドの伝説の狂王スゥイニーの話は、この作品にもの悲しい重低音を響かせている。2017/01/09
星落秋風五丈原
42
【ガーディアン必読1000冊】大学生のぼくが優れた作品に三通りの発端があってもおかしくはないと考え三つの話を書き出すと食事してる叔父が「お前、勉強もしないで何やってんだよ!」と罵声が飛ぶ。何だかつづけてちゃぶ台ひっくり返したり、茶碗が飛んできそうだ。執筆中の小説の主人公トレリスは、二十年も部屋にこもりきりの作家であり、トレリスは自分が創造した作中人物を同じホテルに同居させ、監視下においている。トレリスが書いている小説のなかにファリスキーが出てくるなど、この作品はいくつもの入れ子構造となっている。2018/11/12
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