内容説明
郷里の村の森を出、都会で作家になった語り手の「僕」。その森に魂のコミューンを築こうとする「ギー兄さん」。2人の“分身”の交流の裡に、「いままで生きてきたこと、書いてきたこと、考えたこと」のおよそ総てを注ぎ込んで“わが人生”の自己検証を試みた壮大なる“自伝”小説。『万延元年のフットボール』『同時代ゲーム』に続きその“祈りと再生”の主題を深め極めた画期的長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Vakira
52
あれ?Kさんまた地元の伝説の話?「同時代ゲーム」「M/Tと森のフシギの物語」の次に執筆された作品なのでそう思う。違いました。懐かしい年とはKさんの青春時代、手紙とは書に残す事とすれば、それは半自叙伝小説となる。青春してます。どうやってKという人物は成りえたのか。あるいは自分の青春期を記録する試み。執筆当時、Kさん52歳、自分の青春時代を回想してみたくなる年頃だったのでしょう。毎度の変態合格人間の登場は今回封印。おかげで自叙伝がリアリティを帯びてきます。タルコフスキー監督の映画「ノスタルジア」感。2024/05/29
Gotoran
48
四国の森の中の谷間の村出身の(著者自身とおぼしき)作家K。谷間の村の在の富裕な家に生まれ故郷にとどまって独学でダンテの研究をしている、Kの師匠のギー兄さん。Kちゃんとギー兄さんの交歓を中心にストーリーが展開していく、その過程で繰り返されるダンテの「神曲」とイェーツの引用などでストーリーに奥行きを加えて、読み手を大江ワールドへ誘っていく。読み応え十分だった。逝去された大江健三郎氏のご冥福をお祈り致します。2023/03/14
ドン•マルロー
28
大江氏はこれまでの仕事や半生を振り返らねばならぬ時期にさしかかっていたのだろう。作品を深化させ、新たなるステージへと前進するために。自らの主要な作品をギー兄さんなる架空の存在の目を通して批評し、半生を振り返るその語り口は、あくまでも未来に向けられたものだ。とりわけ”懐かしい年”への唯一の通路を見出す結末の数行は感動的で、並列世界のイメージを用い続けた作家のひとつの結論ともとれ得る。本作においてもラテンアメリカ文学のような、現実と虚構、四国の森の伝承や神話とが並行して語られるというスタイルはあいかわらずだ。2016/04/27
ちぇけら
24
これだから大江健三郎を読むのをやめられないのだ、そう思って本を閉じる。谷間と「在」、Kちゃんとギー兄さんをめぐる物語、ぼくはこれを読むために、これまで大江健三郎を読んできたのだ、という感動と疲労が混淆した酩酊にも似た感情に包まれる。イエーツやダンテの詩句にみちびかれて、Kちゃんとギー兄さんはそれぞれの道を進んでゆく。生きてゆくということは、幾許かの寂しさを伴ってみな歳を重ねるということ。生きること、そしてやがては死にゆくこと、それらの意味が、ダンテの詩句と共鳴して体の底で鳴り止まないカタルシスとなるのだ。2022/02/06
こうすけ
23
すでに知っている物語を何度も語り直していて、しかもそれが600ページちかいのに、なぜこんなにも面白いのだろうか……。燃え上がる緑の木にでてきた「さきのギー兄さん」が何者なのかがわかってスッキリしつつ、これは完全に大江健三郎の自伝だった。小説家になりたての頃の話も出てくるので興味深い。そしてギー兄さんの正体をあとがきで知って驚いた。読んでも読んでも大江沼から全然抜け出せない。2024/09/29
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