内容説明
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戦後、リアリズム至上の伝統歌壇に激震を起した前衛歌人の中でも歌と評論両輪の異才で光芒を放つカリスマ塚本邦雄。非在の境に虚の美を幻視する塚本は自らの詩的血脈を遡行、心灼かれた唯一の存在として宿敵・藤原定家を見出す。選び抜いた秀歌100首に逐語訳を排した散文詞と評釈を対置、言葉を刃に真剣勝負を挑む「定家百首」に加え、『雪月花』から藤原良経の項を抄録。塚本邦雄の真髄を表す2評論。
感想・レビュー
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ヴェネツィア
83
無人島に1冊だけ本を携えて行くならば…実に難しい問いなのだが、これを選ぶかもしれない。少なくても最有力候補の1冊である。人麻呂歌の雄渾、あるいは石見挽歌の慟哭もわからないではないが、歌はやはり定家に極まる。妖艶、繊細さを突き抜けた抒情、無限の彼方を指向する象徴性、有心。塚本邦雄の鑑賞文も、歌詠みならではの、しかも当代第1流の解釈者としてのそれである。あらためて、新古今の、そして定家の到達した歌としての境地の高さを思う。「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」に見られる「非在の美」。2012/08/04
jam
74
「花も紅葉もなかりけり」虚無の美を詠った藤原定家に、前衛歌人、塚本邦雄が遥かな高みで対峙する。規律と解放の双極が完結し、言葉の気配さえ許さぬ定家の百首に、散文詩の断章で臨んだ渾身の超訳である。峻険な嶺に抱かれた雪のように、月光だけが塚本を照らす。しかし、抑制された文章になお、業火の熾火を見るのは、定家への熱情と希求をそこに見るからだ。ようやく辿りついても次の瞬間に突き放される。腹をくくらぬ文章への睥睨が、首筋にあてられた刃の冷たさとなる。「非在の彼方にいざなはれる」と追従を退ける定家に、塚本の真剣が閃く。2016/09/06
藤月はな(灯れ松明の火)
57
王朝文学における歌の雅を解せない為に短歌に苦手意識が強いのですが、小説を読んだことがある塚本邦雄氏の文体による手引きならいけるかもしれないと思い、手に取りました。結果は、見事なまでの撃沈。己が浅墓さを恥じ入る・・・。短歌の横は塚本氏の超訳でもあり、文体も京極夏彦並みに遊び、流麗だ。しかし、「定家百選」における「かきやりしその黒髪のすじごとにうちふす程はおも影ぞ立つ」(77首目)の歌は素人の私でも分かる位、その凄まじい妖美に呑まれた。2023/10/23
yumiha
20
旧字にも文語にも慣れてきつつあるようで、案外すっと読めた。それでも縁語や懸詞、また今は使われていない古語などは、塚本邦雄の道案内がなければ、とても辿り着けなかっただろうと思う。だが、だんだんと定家や塚本の美学や技術的手法に飽きてくる。持って回ったようなレトリックと思ってしまう。私とは響き合わない。そして、『雪月花』の藤原良経の歌の方が、好ましく思えてきた。2016/09/26
LUNE MER
16
藤原定家の歌だけが凝縮された書を読みたい!というニーズへ応えてくれるのが本書。初めて読んだときは全歌集は未読で既知の定家の歌は新古今と新勅撰に採られているものくらいであり、本書で初めて知った歌も多かった。私は「花の香は…」の歌に掴まれてしまったのだが、それもこの本での出逢い。そして塚本氏による和歌の訳が一切口語的でなくて(笑)、それ自身が一つの作品として堪能できるという贅沢さ(?)。もちろん解説もしっかりなされているので和歌の意味・背景についても存分に味わえる。定家好きなら読むべき。