内容説明
精神の危機を感じて外国滞在を決意した作家の父に、妻が同行する。残された3人の兄弟妹の日常。脳に障害を持った長男のイーヨーは“ある性的事件”に巻き込まれるが、女子大生の妹の機転でピンチを脱出、心の平穏が甦る。家族の絆とはなんだろうか――。〈妹〉の視点で綴られた「家としての日記」の顛末に、静謐なユーモアが漂う。大江文学の深い祈り。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
376
          
            6つの短篇からなる作品集(1990年)。おそらくは初めての試みだと思うのだが、これらの作品群はすべてマーちゃん(大江家の第2子・長女の通称。なぜそう呼ばれるようになったかは本文中で語られている)の一人称語りとなっている。もっとも、太宰の『女生徒』や『斜陽』での語りほど徹底したものではなく、マーちゃんに仮託されつつも、文体は明らかに大江のものである。大江夫妻がカリフォルニア大学に滞在中の数か月間、3人で過ごした「静かな生活」(けっして静かではないのだが)が語られる。ここで大江は自己自身と、家族とを⇒2019/01/19
          
        こうすけ
25
          
            障害のあるイーヨー、仏文学生のマーちゃん、独立心の強いオーちゃんの三兄弟が送る静かな生活。といいつつ、実際はなかなかな事件が起きたり、悪意にさらされたりする。しかしその語り口のためか、どこか静謐な印象もある。イーヨーがたまらなく魅力的。これまた、フツーに面白い大江文学だった。人にすすめるならコレ。2024/07/14
          
        KEI
23
          
            仏文にも英文にも疎いので、引用される作家や言葉などを調べながらの読書で難解だった。作家である父が精神的に「ピンチ」となり海外へ逃避行?に母も同行する。その留守を障害者である兄イーヨーと弟オーちゃんとともに守る娘マーちゃんの語りで進む短編連作。先月起きた相模原の障害者施設での殺傷事件が頭に浮かび、「障害を持つ」という事をどの様に捉えていけば良いのかと考えさせられた。重藤さんの妻の言葉「自分をどんな事でも特権化しないで、なんでもない人として生きる…云々」、それぞれの尊厳を認める事ではないだろうか?2016/08/30
          
        メルコ
15
          
            6つの短編からなる連作集。語り手は娘のマーちゃんで小説家の父と母は海外にいっている。障がいのある兄(イーヨー)と受験を控えた弟がいて3人で都内に住んでいる。マーちゃんはイーヨーに付き添って行動していて、そこで遭遇する出来事が綴れる。そんな大事件は起きないが、静かな生活に非日常なことがさざ波のように波紋を広げる。両親が不在の家族を温かく支える周囲の人達が印象に残る。この前観たタルコフスキーの「ストーカー」が話題に出てきて興味深く読んだ。イーヨーと父との関係の変化を著者はどういう想いで書いたのだろうかと思う。2025/03/24
          
        Takashi Takeuchi
15
          
            ※1/31読了。読了から感想まで2ヶ月近く掛かってしまった※ 連作短編集。表題作が一番好き。知的障害を抱える兄イーヨーとの静かな生活を思い描く妹マーちゃんだけど、両親不在の中、弟を加えた兄妹の生活はなんだかんだ事件が起きて騒がしくなり。いろいろあっても穏やかな優しさ感じる。表題作が一番好き。2023/01/31
          
        


 
              


