内容説明
若年のある時、在俗の名門武士が不明の動機で出家遁世した。真言浄土の思想に動かされながら、同時代の捨て聖たちとは対照的な生きざまを辿り、詩歌を通じてしか、いっさいの思想を語らなかった――西行とは何ものであったか。豊潤な感性を強靱な論理で見事に展開する西行論。「僧形論」「武門論」「歌人論」の3部構成で西行の〈実像〉に鋭く迫る!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
浅香山三郎
17
「僧形論」「武門論」「歌人論」の3部からなる。語られた西行、或いは西行自らが騙つてゐたかも知れない西行像を仔細に腑分けして、最後に「歌人論」で、「心」といふ言葉の用例分析等を中心に西行の心境を読み解かうとする。面白いが再読しないと。2019/12/18
nic
8
後続する説話に見られる神話性を西行から剥奪しテクスト「山家集」に焦点を当て論考しようとしている。が、テクストへの実証性にムラが見られる気がしないでもなく…。また和歌の様式に対する論考にも誤りがある箇所には不安も出た。さらに研究者からすればハイライトとなる辞世の歌を始めとする桜花への憧憬も、浄土思想に集約されると余韻なく論じるあたりが、なんだか一杯飲み屋でオヤジに論破された感がある。手垢を鼻で笑う、その小気味良さ。西行を神話から隔離した後の歌人論での西行の「劇化」についての論考が最も楽しめる。西行は覚めて夢2014/01/02
yunomi
3
西行にしろ和歌にしろ、知識は皆無なのだけれど、凄く堂々とした文芸批評だと思った。現代の作家とは違って、経歴を調べたり、インタビューをしたりする事も不可能な、西行の思想を現代に生きる私達が知る為には、遥か昔に遺された作品を「読む」事しか術がない訳で、だからこそ余計な情報を遮断し、作家や作品と正面から向き合う著者の姿勢は実に爽快。2010/09/14
ymazda1
1
同時代の人たちの中の西行に、史料の上に立って近づこうとする感じが面白い・・・単に、こういったアプローチの本が個人的に好きなだけかもだけど・・・ちなみに、同じころ読んだ白洲正子や桑子敏雄の西行関連の本には、現代の人たちと重なる西行像を創造しようとしてるような感覚を受けたことしか覚えていない。。。
akira
1
宗教者としての西行について、手を緩めることなく書いてある。たぶん西行については、今のところ最も満足できた本と思う。中世で描き始められる美への陶酔耽溺の境涯と、自ら聖としての人生を選びとった我執の塊とそれへの逃避、それらの裂け目に西行はあると思っていたから。その裂け目については、恐怖や悲惨、様々なものをひっくるめた混沌がある。修行の山にひびく鳥の声を「すごし」と言ってのける単純さに憧れを覚える。その混沌たる西行ができるまでについて妥協することなくばななぱぱが考察を続ける。印象批判になることはない。良書。2011/04/12