内容説明
漱石の満洲,ロンドン,京都を巡る紀行文「満韓ところどころ」「倫敦消息」「自転車日記」「京に着ける夕」をまとめる.漱石の人間,人事,自然を見詰める眼は的確であり,ユーモア溢れる溌剌とした文章で綴られている.近代日本の秀逸な紀行文となっている.小品5篇を併せて収載する.短文ながら文豪の素顔をよく伝えている佳品である.
目次
目 次
Ⅰ 紀行文
満韓ところどころ
倫敦消息
自転車日記
京に着ける夕
Ⅱ 小 品
入社の辞
元 日
病院の春
余と万年筆
初秋の一日
解 説……藤井淑禎
注 解……藤井淑禎
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
145
漱石の満州、ロンドン、京都を旅したときの日記、紀行文が書かれています。漱石については私生活などはあまりわたしは知りませんがこれを見ると私人としての生活は普通の人と変わらない気がしました。胃の持病があった割にはユーモア的なセンスでかかれていますし、ここにはロンドンでの自転車日記も収められています。漱石の別の面をのぞいた感じがしました。2016/07/26
まーくん
86
『満韓ところどころ』:漱石は旧友の満鉄総裁中村是公に「今度一所に連れてって遣ろうか」と誘われ、満州・韓国へ旅する。結局、持病の胃腸の調子が悪く同道出来ず、遅れて一人「鉄嶺丸」で大連に渡る。当時、遼東半島は日露戦役を経て関東州として日本統治下にあり、満鉄も大連に本拠を置いていた。漱石は同地で要職を務める友人達と旧交を温めつつ、旅順の戦跡を巡り奉天、撫順、哈爾浜そして韓国を経て帰国する。作中の民族差別的な表現や植民地統治者側からの目線について厳しい批判もあるが、それが当時の驕った日本人の目線だったとも言える。2021/07/12
♪みどりpiyopiyo♪
60
明治末期、漱石34~45歳。満州、ロンドン、京都の紀行文と身辺の小品が数篇。旅愁、望郷、友への哀愁。心も作風も一所に留まらず前に進むさまに「なるほど これが漱石か」と人柄に触れた心地がしました。■ぶつくさ言って滑稽味を出したり、技巧を凝らしたり、澄明で沈愁な世界を描いたり。自負と劣等感と差別意識と。■作風の多様さには諸説ある様ですが、読者を楽しませるのが好きなんだろうなー と感じました。■あれだけ練習した自転車にはとうとう乗れなかったのね。「まだ書く事はあるがもう大晦日だから一先やめる」ですって♪ (→続2017/04/25
Y2K☮
51
著者の目から見た満州の姿が罪深い。豪奢な邸の中と荒涼とした外の風景のギャップ、或いは日本人と他の違い。帝国主義の時代故にあれが普通なのかもしれないが、バブル経済と同様「驕れる者は久しからず」の運命だったのだろう。胃を病んでいる漱石にこれでもかと贅沢な食事。もう少し配慮してやれよ。こういう傲慢も「おもてなし」と呼ぶのかな? 後半のエッセイはより反骨ユーモアがちらつく。朝日新聞社への「入社の辞」がいい。帝大を辞めて専業作家になるなんて当時からしたらあり得ない選択。エリートでロックでパイオニア。最高の芸術家だ。2017/01/03
アキ・ラメーテ@家捨亭半為飯
43
旧友である是公氏(満鉄の総裁)に連れられて、胃痛の漱石が旅した満州。ユーモラスな語り口ながら、胃の痛みに耐えながらの旅行はつらかっただろうと同じ胃痛持ちとしては同情を禁じ得ない。続く倫敦留学記は若い旅といった印象。自転車に乗ろうと悪戦苦闘する様を描いた自転車日記は、いつ読んでもおもしろい。漱石先生が自転車に振り回されている様子を想像するとにやけてしまう。京都への旅は、亡き親友正岡子規との旅を思い、哀しく切ない。メランコリーな旅。2017/09/20
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