内容説明
幾多の男たちとの出逢いと別れ。男たちと分かち合った官能の時、共に過ごした情熱の歳月――美しくも激しい心の炎ゆえに何度となく傷つきながら、なお情熱によってしか生きられないひとりの女、俊子。彼女にとって出家とは自分を葬ることではなく、新しく生きることであった。――安らぎの道へと旅立った精神と肉体の軌跡を見つめ、愛と情熱の行方を問う純文学書下ろし長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
68
瀬戸内晴美が描く世界を読んでみようと思い 購入した本。出家に至るまでの内面を書いた本で,よく読まないとわからないので、ゆっくり読んだ記憶がある。文学の正しい読み方は,「理解」するのではなく 「感じる」ことらしい。理解はできなかったが、感じることはできたと思うが、何を感じたかは覚えていない。
ネギっ子gen
45
【「生ぜしも独りなり、死するも独りなり されば人と共に住するも独りなり、そひはつべき人なき故なり」(一遍上人) 】本書は、あの格調高き「新潮社:純文学書下ろし特別作品」シリーズの小説。それも得度直後の執筆依頼ということで、書き出しはいかにも“ザ・純文学”といった風の情景描写が続きますが、しばらくすると平常運転という感じでした。恋多き人生を重ねてきた俊子(法名・俊瑛)の軌跡を描く長編。捨ててきた娘から電話があって、<自分の犯してきた罪を、俊子はかつて一度として許されようと願ったことがあっただろうか>と……⇒2024/06/22
nonpono
4
出家前に女が男に「出家しようと思うのだけれども」と尋ねると男は「そういう方法もあるね」と。この答えの絶妙さ、ずるさ、優しさ、曖昧さが未来の二人の在り方を暗示しているように思えて仕方ない。浮世で最後の旅に行く二人、得度式に付き添う男、比叡山に入る修行の前に会いにくる男。出家が二人の関係に化学作用をもたらしている。離れられない二人の関係。縁を断ち切りたいから出家したのにより強くなる縁。現実では男のモデルとされる作家の葬儀の弔辞を読む寂聴。その結末を知ってからの20年ぶりの再読。味わいが違う。より濃厚に感じる。2023/06/23
ゴトウユカコ
3
「あちらにいる鬼」より本書を先に読み始めていたんだけれど途中にしてしまった。こっちを先に読み終えるべきだったな。寂聴の自伝的小説。清廉な雰囲気のある情景描写、嫋やかな文体、関係のあった男への揺れ動く感情の襞、出家後の行の日々のリアルさなど、何か豊穣な世界を差し出されたような酩酊感。男との訣別として出家するのに、むしろその男との関係性さえも含んで毀形(仏教用語、いったん人間の形を壊すという意味らしい)し、尼僧となった主人公がその過去とともに、よりしなやかに清々しく立つ有り様がとてもよかった。2022/01/16
Gen Kato
2
「情熱の炎は、燃えるにまかせたら、必ず衰え死灰の日を見るだろう。炎のまま、ある日突然凍結させてしまえば、透明で華やかな盛りの色と輝きを、永久に繋ぎとめることが出来る」…主人公の出家は「凍結」なのだろうか。2013/10/14
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